これは戦だ。知的生活のための時間・場所・金銭的自由を確保する
何度でも繰り返しますが、知的生活は学問ばかりする生活でも、頭のよさを競う生活でもありません。むしろそれは、自分のなかにある個性、他の人とは違った興味を意識して生活することです。
私が渡部昇一氏の「知的生活の方法 」を気に入った理由に、決して「本読むの最高!」「本を読んで頭でっかちになろうぜ!」と読者に迫るのではなく、自分の個性を楽しむようになれば自然にさまざまなことを学びたくなるはず、という優しいまなざしがあったからです。
そして氏は、そうした生活を守るためのノウハウについても本で語っています。それが先週の回で挙げた二つ目の「知的生活のための時間・場所・金銭的な自由をいかに確保するか?」というテーマです。
今も、昔も、これは戦争なのです。### 時間、場所、金銭の自由
ヴァージニア・ウルフは「自分自身の部屋」で女性が作家になるには「自分自身の部屋とお金が必要」と切り出し、女性は現実の「部屋」と、社会的な「場所」を求めなくてはいけないと論述を進めましたが、女性に限らず、私たちは誰もが「時間・空間・金銭」という「部屋」を必要としているのです。
まず時間について書くと、ふだん仕事をしている人が、家に帰って本を読んだり、ウェブで最新の情報をキャッチしたり、ブログを書くなどをするためにあてられる時間は決して多くはありません。
私個人で言うと、仕事から帰宅して、まだ幼い娘を寝かしつけて自分の時間が生まれるのがだいたい午後10時頃。それからの数時間が、私にとっての読書・ブログ・執筆のための時間です。しかしこの時間も、常に意識して盗み取るようにして生み出さないと、さまざまな雑用によって消えていきます。
「場所」の自由は、邪魔されずに自分のことができる「定位置」があるかという問題です。渡部氏は「書斎」という形でこれを確保することが知的生活者には大切であるとしていましたが、書斎を作れないとしても、本を読み、ウェブを見るための自分だけの机があるのは絶対条件です。
あるいはこうした場所の不足も、ノマドワークやコワーキングを促進している原動力なのかもしれません。
**「金銭の自由」**は、むかしでいうと「本を買うことができるお金」という意味ですが、いまならパソコンやソフトにかけることができるお金を確保しておくことも追加されます。
本を読む人なら、本のために無条件で使うことができる金額を。音楽や映画を楽しむ人はそれを買ったり借りたりするためのお金を。それぞれが自分の知的生活のスタイルにあわせてとりわけておきます。
また、パソコンの買い換えに備えて常に貯金をしておくのも、長い目でみると大切でしょう。
選択肢という敵と戦う
しかしいま、もう一つの敵がいて、私が有益な読書をしたり、未来につながる情報集めをしたり、執筆をするのを妨げます。それが「選択肢」という敵です。
たとえば夜10時からの自由時間に、テレビばかりみていたら、私にとってはブログどころの話ではなくなってしまいます。テレビが好きなひともいるでしょうし、有益な番組もありますが、少なくとも私にとってはテレビという選択肢はカットすべき敵なのです。
敵はパソコンの中にもいます。記事を書くかわりにツイッターやSNSに熱中してしまった、ついついおもしろサイトで時間をつぶしてしまった、そもそも本を読むはずだったのにウェブばかり読んでいたなどといった脱線はそこら中にあります。
書斎に机を用意したのはいいのですが、机のうえにパソコンがあるために本をほとんど読まない時期があって「これはいけない」と思ったこともあります。
「選択肢」は別に忌避すべき悪というわけではありません。ツイッターを楽しむ時、おもしろサイトを楽しむ時、本をよむ時、すべてに適切な時があるというだけの話です。ただ、ある一つの選択肢を間違えてふけってしまったときに、後悔が待っています。
どこでもつながることができるソーシャルサービス、iPhone / iPad といったデバイスのために、昔よりもこの選択肢を意識することが大切になっているのです。
バランスが大事とも言えますが、逆にアンバランスさが大事ともいえます。たとえば私はここ数年ほとんどといっていいほどテレビをみません。このアンバランスさは、他の選択肢(たとえばブログ)を他の人よりも過剰に追究して個性を生み出すことにもつながっています。
時間、場所、金銭の自由はありますか? そして選び取るべきものはなんとなく決まっていますか?
このベースに基づいて、来週から「知的生活の実践」についての話に入っていきます。
今週の書籍
「知的」などというと学術書ばかり読む雰囲気がありますが、SFや推理小説だって立派に知的生活の一部分です。優れたSFは新しい時代を予感させますし、優れた推理小説は常識を覆してくれます。
今回紹介するのはミステリの傑作として名高い「時の娘 」です。ご存じのかたも多いと思いますが、万が一ご存じない方がいるなら是非とも読んでいただきたいと思って紹介します。
この推理小説、まったく殺人のシーンだとかはでてきませんし、そもそも「事件」は数百年前のできごと、「探偵」はベッドの上で動けない警部です。シェイクスピアの史劇でも知られる悪名高いリチャード三世が、実は非道の王ではなく、隠された真実があったのでは? という一見地味なプロットから生み出されるなんとも豊かな読書体験。
こういう本のために、テレビをあきらめているんですとも!