クリエイティブな才能を殺す F の悲劇

last-piece.jpg Is the “F Word” Really So Bad? | Copyblogger

Finish(完成させる)、Focus (一つのプロジェクトに集中する)、 Follow through (最後まで計画的にやり通す)。これらの言葉を聞いて身が縮むような思いをする人は多いと思います。私もその一人です。

忙しく仕事をするのは簡単ですが、いくら忙しくても物事を完結させるのは難しいという逆説があります。それは、私たちが完結させること、それにともなって他人から評価をうけることを、どこかで恐れているからとも言えそうです。私も最近、これが自分の能力の大きな割合を制限しているのだと気づいて愕然としていました。

いつもクリエイティブなブログの書き方を指南してくれるCopyblogger に、クリエイティブな仕事をしている人の才能を静かに食いつぶす「F の言葉」の罠について詳細に書いていました。意訳も含めて再構成して紹介します。

静かに進む、Fの悲劇

3つの F は、それぞれ、Finish、Focus と Follow through に対応しています。以下では「プロジェクト」を一枚の絵や、小説、ウェブページのように大きな仕事の単位と意味で使っています。

Finish への恐怖:いつも何かが足りない気がして、「これで完成」だと言い切れない気がしている。あるいは「完成」のイメージがあまりに先にあるので、かえって怖じ気が付いてしまって、プロジェクトの進行が遅れがちなってしまう。

Focus できない:あっちが進まないなら、こっちをちょっとやるという具合にいつも移り気で、一つのプロジェクトに没頭できずにいる。

Follow Through できない: 計画的にプロジェクトが進行せず、なんとなく進めているうちに締め切りや、外からの強制力でしかたなく仕上げる。いつもどこかで「時間がもっとあれば」と思っているけれども、本当は湯水のように時間を無駄にしている。

こうして並べてみると、ほとんどの人は(程度の違いこそあれ)この3つのどれかに覚えがあることでしょう。私も、完結する仕事よりも新しく始めている仕事の方が多くて、なんだか気ぜわしくて仕方がない状況でいましたので、こんな言葉はできれば聞きたくありません。

しかしこれらを意識しないと、たくさんのプロジェクトを皿回しのように増やしてゆくだけで、いつかはどれかを落としてしまうはめになります。**「意識的に完結させる仕掛け」**が必要なのです。

F の罠を逃れる方法

しかし上の説明で注意してほしいのは、どれもが「才能の不足」ではないことです。

どうしても越えられない技術的な壁というものはあるにしても、何か始めたことを(形はどうあれ)終わらせるのには、心の中に「完結させるぞ」という気持ちのしかけを作るのがコツとなるのです。

Copyblogger の記事では引き続き、F の罠を逃れる5つの方法について解説しています。

1:モティベーションを再確認する

自分が最も完結させたいと思っているプロジェクトはどれか? なぜ、それが自分にとって大事なのか?(そもそも大事なのか?)プロジェクトが片付いたら、どんな気持ちになるだろうか? どんな未来が開けるか?

2:一つのプロジェクトにコミットする

どんなプロジェクトでも、「山場」と言われる場所があります。しかしそうした山場にさしかかった時に、困難に負けて別のプロジェクトに目移りしていると、両方プロジェクトでクリエイティブな能力が枯渇していきます。「越える」瞬間にこそ、大きな成長があるからです。

できるなら、一度に実行するプロジェクトは一つだけとし、複数かかえなければいけない場合も、時間を明確に区切る事できもちを一つのプロジェクトにむけて傾注できる仕組みを作ります。

3:システムを作る

自分は締め切りがある方がはかどるタイプか? プロジェクトが明快に ToDo リストの形になっている方がはかどるタイプか? 自分の向き不向きを考えながら、開始から完了までのマイルストーンの数を数えられるようにします。

「しごとが片付かない」と曖昧な状態にしておかず、「あと5つのマイルストーンを越えたら完了」というように、プロジェクトが「完了」の段階からどの地点にあるのかを意識できるような仕組みを作っておくことが、ゴールテープを引き寄せてくれます。

4:脱線しない

困難を前にするとどうしても楽な雑用で自分を忙しくしようとしてししまうことが多いので、「脱線をしない」というのは言うは易し、行なうは難しです。

ただ、一つのヒントが元記事の “stay connected” という言葉だと思います。これは今自分がコミットしているプロジェクトに関係したものを周囲に置き、それに関係したファイルだけをコンピュータのデスクトップに置き、頭をそれだけで一杯にするという方法と考えてもよさそうです。

人それぞれの、「夢中になるための仕掛け」を作る事、と言い換えてもいいかもしれません。

5:完了したら、そのことを祝う

これはよく見落とされるステップです。プロジェクトがいつ終わったのかわからないまま、なし崩し的に次の仕事にとりかかっているのでは、成功を味わう事も、失敗点から学ぶ事もできません。明快な「完結」がわかりにくいプロジェクトだったとしても、ちょっと早めにその一段落を祝い、復習しておくことで、心には同じような成功への渇望が生まれます。

落ち着いて考えれば当たり前のことといえそうですが、忙しいばかりでいつも追われていると、見落としがちなところです。こうしたときのために、チェックリストのように上のリストを使うと、自分がはまっている落とし穴に気づくことができるかもしれません。

And one more thing…

元記事には5つまでしか書かれていなかったのですが、最近強く感じる事をあえて6番目に加えたいと思います。それは:

6:外の目を取り入れる

という点です。

私たちの仕事の価値は、多くの場合、私たち自身ではなく、誰か他人が決めます。それが「他人はなんと思うだろうか?」という疑心暗鬼につながって、手がけた仕事を必要以上に複雑にしたり、あるいは極端に中途半端にしてしまいます。

しかし、他人の意見に対する恐怖は、実は他人に見せていない時間が長ければ長いほど膨れ上がる傾向にあります。そこでこれを逆手にとって、定期的に他人からのフィードバックを導入し、外の目を意識することで、物事を前に進めるのが有効なのです。

このとき、意見を求める人を選ぶのも大切です。なるべくポジティブで、物事をつぶす方向にではなく、成長させる方向に解釈できる人であること。でも必要なことはちゃんと言える人であること。

こうしたフィードバックを期待できる人が運良く近くにいるなら、自分も相手にとって目線が同じ人だと言えますので、定期的に意見交換をすることで完成に向けた車輪を回す事ができます。

クリエイティブな仕事は、どこが始まりで、どこが完成なのかわかりにくいところがあります(ブログの記事も)。だからこそ、作業の過程ではなく、「ゴールテープを意識する」という気持ちの仕掛けが、弱気になりがちな心を支えてくれそうです。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。