記憶力を強めるには...眠る方が良い?

asahi.com で 「寝た方が覚える 米ハーバード大、単語テストで実験」 という研究が紹介されています。実験は人を二つのグループにわけて、朝9時に記憶してずっと起きたままでいて夜9時にテストをした場合と、夜9時に記憶して眠ってもらい、次の日の朝9時にテストした場合では後者の方が成績が良いとのことです。

これだと「前者の起きたままだったグループほうが単に疲れていたり、12時間の間に他の刺激がたくさんあったので忘れてしまったのでは?」と言われそうですが、そのあたりもちゃんと実験しているらしく、妨害がある場合・ない場合で比較すると覚醒したままで、かつ妨害があった場合は眠っていたグループよりも格段に成績が下がるようです。

2年前の NHK 「ためしてガッテン」でも記憶術に関する特集がされていて、そこで紹介されていたのは、

  • 覚えたらすぐ眠ってしまう

  • 計画的に思い出し訓練を行う

  • 間隔を空ける

の3項目でした。でもなぜ、睡眠が学習に効果があるのでしょうか?

なぜ眠ると記憶が良くなるのか?

この問題はまだ認知心理学の現場では議論の的となっているらしいですが、楽器を弾くなどのプロセスに関する記憶など、何種類かの記憶は特に眠りによって consolidate、つまり「固定化」するということが言われているそうです。これは機械のキー入力の順番だとかを覚えてもらうなどの実験で確かめられてきたものです。

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どうして眠ると記憶が良くなるのかには諸説ありますが、その多くは眠りによって記憶をつかさどる海馬体などの脳細胞が再構築されるのだと説明しています。脳細胞のデフラグとでもいいましょうか。ほ乳類の子供が長い睡眠を必要とするのも、大量に入ってくる経験情報を眠りで再構築していく必要があるからではないかという説があります。

逆に睡眠が少ないと記憶能力は減退してまるで老化したときと同じような状態になるということが指摘されています。また認識の能力も減退して、間違っているのに自分は正しいと思いこんだりする傾向が強くなるといった実験結果も報告されています。

今回のハーバード大の実験は単語テストですので、もっと複雑な言語野などを含めた記憶も眠りによって固定化する傾向があることを示したものといえそうです。

ふだん私たちが暗記するというと、テストで年号を覚えたい、新しい外国語を覚えたいといった要望が多いと思いますが、これらにも当然応用できそうですね。

問題は、眠ったから自動的に記憶力が強くなるというわけではなく、やはり定期的に思い出し訓練をした方がよい点です。「暗記ができない」という悩みの多くは、むしろこの「定期的に練習ができない」という問題に置き換えられるのではないでしょうか。

眠りによって記憶が固定化される効果を最大限に使うには、この**「眠り」と「練習」をセットにして習慣化**してしまえばよさそうです。

  • 前の日の夜に単語帳を作り、眠る前に一度暗記する

  • 眠る → 記憶が固定化

  • 目覚めて次の日の通勤・通学時に一通り再度目を通す

これを一日の同じ時間に固定して行うことによって習慣化すれば、眠りによる記憶の固定化の効果がさらに強まることが期待できそうです。固定された時間に練習を行うには、たとえば**単語帳の単語をメールで携帯に一定の時間に送信してしまう、という「自分抜き打ちテスト」**という方法が使えそうです。これについてもまた後日書きましょうか。

8月に中国に出張にいく予定があるのですが、それまでにこの方法で最低限の中国語を覚えてみることにします。

眠りと記憶についての現状については、こちらでも詳しく説明されていますので参考にしてみてください。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。