Mediumの限定投稿で収益を得られるパートナー・プログラムは健全な収益化につながるか

英語の文化圏では長文のスタンダートプラットフォームとなったMediumから、新しい収益モデル、「パートナー・プログラム」がスタートしています。

Mediumはすでに月額$5の有料メンバーシップを始めており、以前から選別されたパブリケーションに対してはその収益をシェアするプログラムを開始していましたが、今回はそれを一般に広げるという形をとっています。

このニュースには一つの落とし穴と、一つの希望が見えてきます。

エンゲージメントを収益に

落とし穴というのはもちろん見方によるのですが、このプログラムで収益をあげるには、ただ読者が記事を開いて読むだけでは十分ではありません。書き手と、読者の両方のエンゲージメントがないといけないのです。仕組みとしては:

  • 書き手は、無料の記事以外に、鍵をかけた記事を作成します。この鍵をかけた記事がパートナー・プログラムの対象になります。

  • 読者は、この鍵をかけた記事を読み、「拍手」という形でエンゲージをしなければいけません。

鍵をかけた記事は、Mediumにサインアップしてログインしていないユーザーには読めません、またサインアップだけをしている非課金ユーザーなら月に3本までを無料で読むことが可能です。月$5のメンバーシップを払っているユーザーなら、これらの限定投稿を無制限に読むことができます。

「拍手」は先日 Medium に追加された「いいね」に変わる仕組みで、ユーザーは何度でも押して記事に対して拍手を送ることができます。拍手という性質上、悪質なコンテンツや、タイトルでクリックさせただけの記事はなかなかこの数字を高くすることはできません。

一方で、すばらしい記事を読むと私は10回くらいこのボタンを叩く傾向があり、どうも他のユーザーもそうしているようです。

つまり、書き手の側で「これはMediumの限定投稿」と指定するというアクションと、読む側がMediumにサインアップして拍手をしなければいけないというハードルがあるわけです。

よいコンテンツを応援したい

どうしてここまでハードルが高くしてあるのかというと、当然ですが PV という、コンテンツの価値とはねじれの関係になっている指標と収益性を切り離すためです。

PVは測定しやすいですが、それだけに「クリックさせれば勝ち」という側面がさまざまなコンテンツの低品質化を生み出しました。これは Google Adsense のように、PV を換金できる仕組みがあるためで、Mediumはこの悪循環を断ち切りたいと思っているようです。先程の、パートナー・プログラムのリリース記事には以下のくだりがあります。

As a result, the path to profit is to manufacture attention more cheaply than what you get paid for it. This is not a dramatically different formula than the media business has historically run on. However, attention is now tracked, commodified, and rewarded in a way that has huge implications. Attention is rewarded, regardless of quality, context, or whether it was earned by conscious choice.

結果として、収益性とは支払われるお金よりも低いコストで耳目を集めることと同義になってしまった。これはこれまでのメディアが収益を上げてきた方法とほとんどかわりはない。しかしいま、ひとの耳目を集めることはそれ自体がトラッキングされ、商品化され、重大な影響をもつ形で収益化されている。アテンションは、情報がもっている価値やコンテキストとは関係なく、意識してそれを選択したかと関係なく収益化されているのだ。

この「選択」という部分が非常に重要で、読者としての私たちはウェブページをひらいて無意味なものがあったときに、つまらないものを読んで時間を無駄にしてしまった後悔だけではなく、PV を与えて収益化に寄与してしまったことで二重に損をした気分になります。

Mediumのパートナー・プログラムは、私たちが自分たちが能動的に選び、自分の意思でエンゲージした記事に対して収益をシェアすることによって、良いコンテンツがプラットフォームに集まるようにうながし、読者にとって安全な場所を作ることを目指しているといえます。

日本ではどうなる?

さて、パートナー・プログラムにはさっそく登録してみたのですが、登録自体は Stripe のアカウントを作るだけですので問題はありません。しかし、Mediumが日本スタッフと契約を解除していたり、あまりこちらでの活動はされていないこともあって、日本でユーザーが増えているのかは微妙なところです。逆に、日本にいながらにして英語がかける人にとってはチャンスかもしれませんね。

Mediumの試みは応援したいので、また続報がありましたらご紹介します。また、拍手機能を使ってみたいというかたは私のパブリケーションの記事でぜひお試しください。

 

 

 

 

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。