演説の途中で電話が鳴り始めたときのオバマ大統領の対応

Facebookにおける動画メディアの先駆けとしていつも興味深い編集でニュースを切り取っているNowThisで、オバマ大統領が政敵にむけて自分の実績をアピールしている短い投稿がありました。

その内容も面白かったのですが、動画の半ばで大統領の演説中に携帯電話が鳴り響く瞬間があります(現場ではもっと大きく聞こえたようですが、動画ではかすかに聞こえるだけです)。それに対する大統領の対応がスピーチの技術として神がかっています。

President Obama shuts down haters who call him a ’lame duck’President Obama: I am NOT a lame duck president

NowThisさんの投稿 2016年3月14日

動画ではちょうど30秒近辺です。

「最強の軍隊をもつ国として、アジェンダを設定する手伝いをしなければ物事は進まない。世界はリーダーシップを求めているのだ」という内容のことを話しているときに、電話が鳴り始めます。

演説を清聴していた人たちが「なんでマナーモードにしていないんだ」とイラッとし、電話を鳴らしてしまった人もおそらくは「しまった!」と思っているときに大統領がすかさずそれを拾います。

Somebody’s calling right now to see if we have the answer to some problem.

ほら、誰かが困っているみたいで電話しているようだね。我が国が助けてくれないかと呼んでいるんだよ。

聴衆はわっと笑い、その瞬間にイラッとした空気は消え失せます。しかも冗談自体がそれまで話していた話題の流れに沿っていますので、冗談を言ってから流れを元に戻す必要がありません。これはお見事。

イラッとしたときこそ、チャンス

オバマ大統領はこれまでもなんども、こうしたスピーチが思い通りにいかない、不測の事態において聴衆の苛立ちを引き受けて場の空気を変えるという芸当をしてきています。

一番イラッとしてもよい立場にあって、瞬時にこうした反応ができるのはスピーチの技術として超一流なのはいうまでもありませんが、話し手としてイラッとする瞬間はチャンスだということも示しています。ハプニングを拾うことで、かえって聴衆の心を引き付けることができるからです。

これはプレゼンテーションのテクニックとしても、心がけておきたいところです。

もっとも、先日の SXSW でのスピーチの質疑応答のときには、進行中の Apple 対 FBI の事件に関連してどっちつかずの応対をしてしまって批判を浴びていたようで、オバマ大統領もつねに完璧に拾うことができるわけではないというシーンも時折見かけますが。

オバマ大統領のスピーチに関しては、まだ上院議員で大統領候補だったときに次の記事を書いていましたし、もう一つのブログ、ライフ×メモでは2013年に行われた抱腹絶倒の晩餐会でのスピーチについての記事を書いています。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。