GTD + 7Habits (1) リアルタイム + 価値観の仕事術

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大学の学部時代に、たいへんお世話になった先生がいます。12 MeV の電子加速器を一晩中使い放題にさせてくれることを、普通でいう「世話」に含むならの話ですが。

この先生には学業だけでなく、人生哲学についても多くを教えていただいたのですが、その場の勢いだけで行動する私にいつも口にしておられたのが、「きみねえ、微分だけで生きるな。積分を考えろよ」という話でした。

微分はグラフのある点における傾きです。文学的に表現するなら、その場の「勢い」でしょうか。積分はグラフが描いた範囲の面積に相当します。

先生がおっしゃりたかったのは、乱高下する株価のように生きてるのでは、ある瞬間には非常に強い上昇があっても次に強い下降があるのでトータルでの成長は ないも同然で、逆に時々下がってもゆっくりと地道に成長する生き方の方が長い目でみたら得だという話だったとおもいます。それを理系らしく、微分・積分と 表現されたのでしょう。

このアナロジーが、GTD と7つの習慣の関係に対応しているなと、いつも感じています。

リアルタイムの仕事術

GTD はリアルタイム性をとても重要視しています。「いま、何をすべきか?」「いま、何ができるか?」という質問が繰り返し出てきて、ある瞬間にやるべきことがすぐに把握できるようなシステムを作ろうというのが根本の哲学にあります。

GTD 本でも、「垂直レベルのプランニング」という形で、身近なことから大きな枠組みまでの心配事をすべてキャプチャーしようということは書いてはあるものの、やはりフォーカスは「身近なこと」に置かれているような気がします。

それにはちゃんとした理由があって、「自分は人生で何をすべきか」「自分の価値観は」という大きな質問から日頃の行動を 100% 生み出せるならそれにこしたことはないのですが、戦場で銃弾が飛び交う中で「兵士としての価値観」などと口にしていても目先の仕事が片付かないという「現場レベルの思考」が GTD の根底にあるからです。

兵隊なら、こうした価値観や行動様式はブートキャンプで叩き込まれて、下地として存在するべきもので、実際に行動するときにはもう無意識のなかに溶け込んでいることが前提になっているわけです。

しかしこうした人生の舵取りレベルの大きな価値観の成長は、GTDの「垂直プランニング」では難しいのではないかとよく思います。GTD 原書の第一章には、「価値観をクリアーにすると、それだけ自分のハードルを上げてしまうことになる。そして現状に対応しきれていないというのに、もっとや るべきことが次から次へと見えてしまいストレスを増やす」と、価値観の成長にはちょっと否定的な表現がでてきます。

急にハードルを上げるのではなく、ゆっくりと、積分で効いてくるように上げてゆく方法論を GTD と組み合わせることでこの点をクリアできないものでしょうか?

価値観ベースの仕事術

その点でやはり有効だと思うのがスティーブン・コヴィー氏の「7つの習慣」です。

「7つの習慣」は第一から第三の習慣で「内的な習慣」を、第三から第六の習慣で「対外的な習慣」を段階的に作ってゆく形をとっています。詳しくは本の方を見ていただくとして、簡単にまとめると自分自身の価値観をベースにして最重要事項に向かって自分をステアリングしようという、GTD とは逆方向の哲学をもっています。

先ほどの兵隊のアナロジーでいうなら、体にたたき込まれた行動様式の部分であり、船のアナロジーでいうなら GTD がオールのこぎ方なのに対して、船頭の舵取りの部分に相当するのではないでしょうか。

二つは融合できる?

また数学にもどってしま いますが、なんとなく二つは x 軸と y 軸のように直交していて、片方が不得意な部分を片方が補うことができるように思えます。人生のコースを「7つの習慣」で導きながら、実際にオールを漕いで 進むためのテクニックは GTD で進めるというような感じです。

まだ自分でもちゃんと軌道にのせているとは言い難いのですが、この3年間フランクリン・プランナーと Hipster PDA の両方をいつも持ち歩いて試みた実践について、これから不定期連載で書いてみようかと思います。

それにしても頭でっかちな連載になりそう…。机上の空論ばかりにならないように、実践の方法もいくつか差し挟みながら進めようと思います。まず次回は、Role 「役割」と Context 「コンテキスト」について。

(念のため付け加えると、GTD の7つの習慣の両方について知るには、原書にあたっていただくのが最も近道です。上にかいてあることも、これから書くことも、全て私個人の解釈と経験ですので。)

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。