ライフハックは「回復魔法」であるという話

先日発売した「ライフハック大全」ですが、おかげさまで好評をいただいています。

Amazonのサイバーマンデーセールの影響もあってKindleストアではなんと1位を達成しましたし、単行本のほうも大きめの増刷が決定しました。発売3週間で、4万部達成です。本当にありがとうございます。

今回の出版は、久しぶりの単著ということもあって「本を作る」という部分だけではなく、出版後に「いかにして売るか」といった部分も、いろいろと実験を試みたり、これまでやってなかった取り組みに挑戦しています。

そのあたりは今後シェアできるタイミングもあると思いますが、むしろいま書いておこうと思ったのは、この本に含めなかったことについてです。

成功できる・立場が上になる、といった言葉を封印

ビジネス書というカテゴリで書く以上、そこにはビジネス的な応用ができるという説得力が求められます。そしてそれを簡単に生み出すには、「著者はこれだけすごい、実績のある人物だ」というアピールと、「これを読めば成功ができる、年収が上がる、尊敬を勝ち取れる」といったメリットをアピールするのがありがちな手法です。

しかし、本書を手にとった方はお気づきかと思いますが、実は今回、こうしたものはほとんど封印して執筆をしています。本のどこを開いても「こうしたハックのおかげで私はこれだけすごいことになった」という文章はありませんし、実のところ私がこれらをすべて使いこなしているかどうかについても書かれていません(もちろん全部同時に使いこなすなんて無理です)。

そういう文体を選んだのは意図的で、ライフハックなどというものをいくら極めたところで、人が羨む成功が待っていたり、誰かよりも上の立場になれるわけではないのだということを暗に表現していたのです。

あとがきでも触れたとおり、ライフハックといった小さなノウハウは使うべきところで使い、必要がなくなったら忘れてしまうのでよいのです。

ライフハックは「回復魔法」

最近、家で久しぶりにテレビゲームを子供とする機会がありましたが、ライフハックというのは、あるいはもっと広く捉えてハウツー本というジャンルで提供されているものは、いうなれば「回復魔法」なのだなと思います。

強敵と戦っているとき、もうゲームオーバー寸前になるとき、ライフをつないでなんとか目標を仕留めるための猶予を与えてくれるのは回復魔法です。敵を倒すための決め手にはなりませんが、だからといってそれがなくてはたいたい先に進めません。

最近、ようやく20代の若い読者の声が私のもとまで届き始めているのですが「ToDoはラクになるために書くのでいいというのは面白かった」「小さなテクニックでいいという部分に共感した」という感想をいただいて、これでよかったのだなと胸をなでおろしています。

それでなくても現実はとても厳しくて、仕事は積み上がる一方で、大それた成功や野心を抱くのもたいへんけっこうだけれども、まずは目の前の敵をなんとかしなければという人がほとんどではありませんか。

だからこそ、私はそうしたひとに、忙しすぎて自分のことを社畜だなどと言わないとつらすぎて立っていられないという人に、とりあえず命をつなぐための回復魔法が届けられれば本書の役割は十分なのではないかとと思ってこうした構成にしたのです。

たとえば、Hack 087 で「選択肢とやりがいを都合よく選択する」という話をしています。仕事に行くのが気が重いのだけれども、昼食においしいランチを食べるのだけは楽しみというのなら「そのランチのために自分は出かけるのだ」というのでいいという話です。

野心的でもなければ、どこかツンデレでちょっとダメなひとの発想のようにもみえますが、それで心がラクになってやるべきことができるならば、それでいいのです。

本書が、そういった小さな回復魔法を必要としている人に届いてくれればなと思います。

そういう著者の思いを感じ取ってか、ほんのどこかに下のような魔法使いがいるので、よければ探してみてください。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。