Evernoteの未来について、クリス・オニール新CEOに聞きにいってみた

なんだか最近Evernoteについて悪いニュースが立て続けにでています。

Evernoteに限らないのですが、加熱しすぎた投資にけちをつけるように、2015年は「ユニコーン」とあだ名されるスタートアップ企業に陰りがでてきたのではないかという憶測が飛び交いました。

EvernoteについてはCEOのフィル・リービン氏が退任し、クリス・オニール氏に交代したというニュースがありましたが、会社自体が岐路に立っているのではないかという記事はいろいろとでていました(その一例)。

そこにきて、Evernote が買収した Skitch の iOS 版、Android 版、Windows 版のサポートが終了し、Clearly の開発も終了というニュースが入ってきました。

一見、悪材料が続いているようにみえるのですが、本当のところどうなんでしょう? そんなことが気になりましたのでサンフランシスコのEvernote本社にCEOのクリス・オニールを訪ねてみました。

基本に立ち返る。そのスピード感

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というのはちょっと大げさな言い方で、本当は本業の仕事でサンフランシスコに立ち寄っていましたので、その時間の合間に Caltrain に飛び乗って Evernote 本社のある Redwood city まで押しかけていたのでした。

本社訪問は数年ぶりでしたが、まだあの黒板に描いた “Remember Everything” のチョーク絵がそのままでした。

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ミーティングに入る一瞬の時間をいただいて、CEO のクリス・オニール氏(写真右、左は以前からの知り合いのSethさん)と数分間話すことができました。お忙しいところ本当にすみませんでした(笑)

ほとんど自己紹介しかする時間がなかったので、私からは本当に言いたかった一つだけのメッセージを早口で伝えました。それは、「日本ではニュースしか耳に入ってきません。そしてニュースではいろいろ言われているのは知っていますが、むしろそんななか、あなたがEvernoteのコアビジネスに急速に会社の舵を切るスピードに感嘆しています。日本のユーザーを代表して、応援していますと伝えにきました」という点です。

クリスは少し内角深めに投げ込んだ私の質問を避ける様子もなく「ああ、これから我々はEvernoteが最も偉大である部分に力を注ぎこむつもりだよ」と返事をしてくれました。

たったそれだけの短い会話でしたが、私にはそれで十分でした。

というのは、よくよく考えてみると Evernote は実際のところなにも失ってはいないからです。

Skitch for iOS / Android はたしかに便利なアプリでしたが、Evernote 自体にはユーザーを増やすわけでもありませんでした。Skitch の機能は Evernote アプリのなかに取り込まれているのですから、アプリを二つ抱えているのはそもそもおかしいわけです。

Clearly という Chrome 上でウェブページを簡略化して取り込む拡張機能も、本家ウェブクリッパーに機能が取り込まれているので、やはり二重化していたのです。

フィル・リービン氏はどちらかというとアイデアマンで、スタートアップを生み出す能力に長けていました。逆にクリス・オニール氏は、目を正面から覗き込み、言葉を交わした印象では「非常に有能なマネージャー」だと感じました。

しかも、目に見える部分を飾るタイプのマネージャーではなく、ユーザーの側からはみえない部分を徹底的に磨くことでエンドユーザーの経験を高めるタイプの人ではないかと思うのです。

そんな人にとって、サービスのなかに重複があるのは許せないはず。いま彼が取り組んでいるのは、すさまじい速度で打ち上げられたEvernoteという衛星を、安定した起動にのせるための取り組みなのです。

ここで、私は特になんの内部情報ももちあわせない、完全な当てずっぽうで予想をするのですが、クリス・オニール氏のもとで2年間ほどたった頃に、Evernoteはよりシンプルで、高速で、情報の整理をいまほど手間かけずにできる「新しいEvernote」に進化するのではないかという予感があります。

新しいリーダーのビジョンが開発者の手を経て結実するまでに、それくらいの時間は最低でもかかるんですよね。だからいまは、どんなニュースがでてきても、あまり驚かないようにしています。

リアル店舗があった!本社のEvernoteマーケット

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今回訪問して驚いたのは、正面入口に以前はなかったEvernoteマーケットの商品が並んだ店があったことです。これは、Evernoteマーケットのリアル店舗じゃないですか。

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というわけで、「ひらくPCバッグ」Evernote エディションも並んでいました。ええ、ふらりと買ってしまいましたよ…ウィート色を。だって、売り切れたらなんだかもうてにはいらない気がするもの!

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こちらは「小さい財布」のラインナップですね。よく考えると、日本で見慣れた製品がこうしてサンフランシスコに並んでいるのって、すごいことです。

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今後マーケットが整理されるとしても、なくなってほしくないなあと思うのが、リアルとクラウドとをつなぐ役割をもった製品群です。

たとえばこの 3M ポスト・イットの Evernote エディションは、机のうえにどんどんタスクを書いて貼り付けてあとでEvernoteのなかに回収する使い方が便利ですが、この象印のトレイ付きのものは消えてほしくありませんね。

Evernote マーケットの最大40%セールはまだつづいているようですので、気に入っているものがあるなら、お早めに買い占める感じでいいのではないかと思います。

(付記)

ようやくかけるのですが、私が訪問した週にEvernote副社長で気のいい友人のAlexも社を離れるときいていました。直接は会えなかったのですが、こんなやりとりがありました。

「何か新しいことをするんだよね」

「ああ、また連絡するよ」

「期待してるよ」

みんな、次のステージに移りつつあります。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。