スマホとカメラを越境するOlympus Air A01の先にある未来

先日、オリンパスのオープンプラットフォームカメラ 「Olympus Air A01」の発表会と体験イベントがあり、その様子がソーシャルメディア を通じて伝わってきていました。

私は都合が合わなくてイベントには行けなかったのですが、それでもな んだか気になってしかたがありませんでした。 その後書かれているいくつかのブログ記事をみてもなぜ気になるのかが 納得できず、自分なりにその理由を考えていました。 そして、このカメラ(?)が気になる理由、それはこれがまた一つの境 界を浮き彫りにして、それを乗り越えようとしているからではないかと 思うようになりました。

本体 + レンズ + スマートフォン が生み出す境界

 Olympus Airは先行するSonyのQX1と同様に、スマートフォンと接続し、 レンズを交換して利用することができるカメラです。上の画像をみて も、いったいどういうことなのかピンとこない人もいると思いますので 分解するとこういうことです。

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本体とスマートフォンはWiFiあるいはBluetoothで通信を行い、通常のカ メラならばボディに存在する操作系をすべてスマートフォン上のアプリ で行なうわけですね。

本体と操作系が別々ということは、本体部分だけを持って好き勝手な構 え方をしてもよいし、人間がカメラをかまえられない場所に据え付けた りして撮影するのも自在です。

しかしこれは、カメラ側からみると操作系がスマートフォン側に追い出 されていると表現できますが、スマートフォン側からみるとカメラが拡 張されているとみることもできます。そう、Ricoh Thetaの話題でもお話 した「境界」が、ここにもあるのです。

アプリの力で引き出されるカメラの能力

Olympus Airを「スマートフォンから操作するカメラ」と表現するとわか りにくいことが、「スマートフォンのアプリで性能を引き出すカメラ」 と読み替えるといろいろしっくりきます。その哲学を内包しているの が、すでに提供されているさまざまなアプリです。

000053607.jpg  たとえばこちらのO.A.Geniusアプリは、一回の撮影に対して様々な見せ 方を提案してくれるようになっています。

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「なんだ、こんなのスマートフォンのアプリならいくらでもあるよ」と 思われるかもしれませんが、実はそこがミソで、**スマートフォンで当然 なことを通してデジタル一眼レフの世界にアクセスできる **と考えれば面 白いわけです。そういえばデジタルカメラではこういったことを即座に 行なうのは面倒でしたものね。

000053605.jpg  提供されている数種のアプリのうちのもう一つ、O.A.ColorCreatorも同じ です。

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色相、彩度、ハイライトとシェードの操作、アスペクト比の変更などと いったことは、スマートフォンのカメラアプリなら当然のことですが、 一眼レフカメラを通してそれができる。

位置情報の添付や、ソーシャルメディアへの投稿なども気軽にできるわ けで、デジタル一眼レフがスマートフォンの外部機器化しているといえ ます。

オープンプラットフォームのもつ意味

ここでようやく「オープンプラットフォーム」という、カメラの頭につ く言葉としては奇妙な文言の意味が見えてきます。  indexMainImg05.jpg

現在提供が予定されている O.A.GeniusやO.A.ColorCreatorなどといった アプリは割合当然な機能を備えたものが多く、まだいまのところ「それ ならスマホアプリでもできるよ」を大きく越えてはいません。

しかしOlympus Airはすでにカメラとしての規格やAPIを公開して、今後 さまざなアプリを迎え入れる態勢が整っています。 これはスマートウォッチのPebbleがアプリ上でPebble Storeをもってい て、スマートフォンマウントの Mottr Galileoがやはりアプリ内にアプリ ストアをもっているのと似ています。  opc.jpg

イベントの様子をみていると、天井のレールに据えられたOlympus Airが リモートで映像を撮影しているといった例が紹介されていて「Makersと カメラの出会い」などと表現されていたのですが、これだと電子工作が 好きな人向けのカメラなのか、と、いまいち親近感がわきませんでし た。

しかし先日文化庁メディア芸術祭で 3RDというインタラクティブなイン スタレーションを体験したときに、ああ、こういうことかと納得するも のがありました。

P2090040.jpg  3RDは天井に据えられたカメラの映像がかぶったマスクの中に投影され ているというしかけになっていて、装着した人はまるで RPG のキャラク ターのように自分を頭上からみて会場を歩き回る体験をするというもの です。

つまりは視点の変化を体験するアートなのですが、Olympus Airで提供さ れるであろうアプリストアもきっと似たような可能性を模索したものな のではないかと思うわけです。

スマートフォンの外部機器としての通信できるカメラ。それがふだん撮 影できないアングル、瞬間を捉えることをアプリで可能にしてゆく。新 しいアプリの数だけ「視点」が生まれる。

そういうビジョンをオリンパスが追っているのだと考えると、いろいろ 腑に落ちます。なるほどそれはカメラの現状を打破して、「スマートフ ォンのカメラでいいじゃないか」という一線をこえることになるかもし れません。 

ハックできるカメラなのではなく、ハックできる余白が残されたカメラ

撮影者が意識しているかどうかは別として、ソーシャルメディア時代の 写真は、単に美しい映像というだけのものをすでに乗り越えています。

いしたにまさきさんと大山顕さんは「みんなの写真」という本で、アッ プロードされシェアされることによって最初の意図を越えて受容されて ゆく写真と、写真はこうあるべきという固定観念を揺さぶることで生ま れる新しい視点について語っていました。

ここまで前衛的でなくても、スマートフォンの写真をツイッターでシェ アするといういまでは当たり前の行為自体が、それまでの「カメラで写 真を撮る」という世界から大きく踏み出しているのです。

Olympus Air はあえてカメラの用途を限定せず、アプリのプラットフォー ムを生み出す「余白」をユーザー側に残すことによってこの新しい視点 の創出を狙っている製品といえるでしょう。

携帯電話にカメラが搭載された当時、「誰がそんなもの必要になるんだ」という意見が出たというのはいまでは笑い話ですが、そういった今は笑い話でも将来は当然になる視点が生み出されるのを待っているカメ ラともいえます。

ならばその未来が見てみたい。この小さなカメラにそんな過大ともいえ る期待をしてしまうのです。

(追記)

期待値が高いその一方で、カメラ自体をどれだけハックできるかには限 界があることが指摘されているようです。このあたりはAPIのしっかりし ているSony に一日の長があるようで、今後オリンパスが追撃するのか、 違う戦略を狙っているのか、細かい話ですが注目ですね。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。