GTD 再入門 (4) 常に「次にやることが」わかる GTD の簡単なルール
[この記事は火曜日の連載、GTD 再入門の第四回です。今回は GTD のシステムの歯車、バケツとコンテキストについて]
朝起きると、それはすでに届いています。そして「今日はあのファイルを忘れないように」と起き抜けの眠い頭脳に呼びかけます。
職場に着くと、それは机の上の目につくところにすでに置いてあります。そして「今日はまずこの仕事から始めるように」と有無を言わさずあなたに命令します。
行きつけのお店にいっても、やっぱりそれは追っかけてきます。そして「君は 60W の電球を買うんだ。そう決めただろう?」と念を押してきます。
いつも自分の考えを一歩先回りして、「何をするんだっけ?」と思う前から答えをささやくこの小さな存在、それが GTD がうまくいっているときの「リスト」です。
GTD がストレスフリーの仕事術である理由の一つに、「いま、ここでできること」に集中できるという点があります。言い換えるなら、それは「いま、ここでできないことは忘れる」というものでもあります。
こんな命令だらけの生活は一見窮屈に見えますが、実のところはその逆です。「何をするんだっけ?」という What の疑問に答えが与えられているということは、ストレスの生じる部分をすっとばして「どのように実行すればいい?」というナレッジ・ワーカーとしての真価を発揮できる面白い部分に集中できることを意味しています。
GTD ではこうした「いま、ここでできること」を浮かび上がらせるために、常識的な簡単な仕組みを提唱しています。それが「バケツ」と「コンテキスト」です。
矛盾の無いシステム
この記事を書くために原書の7章を読み直していて改めて感心したのが、David Allen の方法は常識的な「予定があったらカレンダーに書く」「やらなきゃいけないことをリストにする」というだけのことに、たった一つのルールを加えただけなのだという点です。それは:
カレンダー・ToDoリスト・プロジェクトリスト・いつかやることリストといった、タスクを格納する複数の「バケツ」がいくつあるにせよ、それらが相互に矛盾すること無く生活のすべてをマッピングするように配置せよ
というルールです。例えば約束や会議などのような、時間決めうちのタスクが多い人はカレンダーに頼ることが多いはずです。一方、「片付くのが早ければ早いほど良い」というパイプライン式のタスクが多い人は ToDo リストを多用するはずです。いずれにしても、
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どの状況で、どのリストあるいはカレンダーをみればよいかがはっきりしている
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そこに必要なことが全て書かれているか
という2条件が成り立てば、頭の中はいつも空っぽでも、やらなければいけないことがリストのなかにいつも書いてあるので安心です (実際には、どのリストに加えればいいのか判然としないタスクを2つの場所に両方書いておいて、取りこぼしをなくすというハックもあるのですが、それは例外としておきます)。
逆に、「読むべき本」のリストに「ブログを書くこと」というタスクが入っていたり、カレンダーに全ての約束事が書かれていなければ、それらのリストを信頼できなくなります。そして手元のリストを信頼せず、また記憶を頼るようになって、ストレスが増えてしまいます。GTD 脱落というわけです。
バケツとコンテキスト
David Allen が原書で基本的なものとしてあげていたバケツは「プロジェクト・リスト」「いつかやるリスト」「Next Actionリスト」「カレンダー」「Waiting リスト」「リファレンス」などです。
実際には、これら全てがなくても GTD はちゃんと機能しますし、何に重点を置いているか次第では、もっと変なバケツを作ることも可能です。「携帯」というバケツをもっていたという人だっています。
これに対してコンテキストは、「バケツ」に直交している概念で、「Next Action リスト」を整理するためのものです。たとえば「仕事」「家」「買い物」など、それぞれ別の場所に割り当てられたリストを用意することが、コンテキストを意識した ToDo リストを作ることに対応しています。家にいるときは、仕事のリストは開いても意味がないというように、タスクを場面ごとに分割することで「いま、ここでできること」のリストを実現しているわけです。
ここで経験上よくやってしまうのが、「仕事」というコンテキストと、「オンライン」というコンテキストを作ってしまうように、互いが重なっていたり、包含関係にあるコンテキストを作ってしまう場合です。これでは、タスクが断片化してどこにあるのかわからなくなってしまいます。コンテキストは互いに矛盾や、曖昧さがないように作るのが技であり、楽しいところです。
原書には「電話」「コンピュータ」「雑用」「仕事場」「家」「対人」「読むべきもの」というコンテキストがありますが、これも人によって互いに矛盾していたり、自分の生活のすべてを網羅できていない場合があるはずです。
また、コンテキストは時間と生活とともに変化するものでもありますので GTD を長続きさせたいと思う場合、コンテキストを常に見直すことが一つのコツになります。
原書の GTD のコンテキストは古い?
今から GTD を始めようとする人が注意すべきなのは、GTD の原書に掲載されているコンテキストは出版後時間が経過したせいか、ちょっと古くなりつつあるものが含まれているという点です。
たとえば「Read / Review」のコンテキストが「Computer」と別になっていますが、これは「Read / Review」が新聞・雑誌などを主眼においていて、現在のように全てがオンラインで読める時代を想定していないからです。
またコミュニケーションの手段が発達してきたことで、たとえ出先であってもオフィスにいるのと同じように「電話」「メール」「雑用」を要求されることが多くなっていることにも注意が必要です。
自分は「どこで」「何を」実行しているのかという質問から逆算して、今の時代に適応したコンテキストを作らなければいけません。GTD の原書は、あくまで目安と考えてください。
ちょっと変わったコンテキスト
今の時代にあっているかはわかりませんが GTD を追求してきた人には、次のような面白いコンテキストを作っていた人もいます。
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会社別・人別コンテキスト:特定の会社・人物とのやりとりが多いなら、その人について「次に行なうべき行動」をそもそも別のリストとして管理する方が頭の整理ができます。
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端末 PC ごとのコンテキスト:デスクトップに座っている場合と、ノートパソコンで作業をしている場合では、実行できる作業が違いますので、こうした分け方をしている人もいます。
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上司帰ったコンテキスト:いつも背後から監督している人の目を盗んで何かを進めるために、監督がいる場合にできることと、いないときにすすめることを分けている人もいました。これは過激な…。
もちろんコンテキストは増やすだけが良いのではなく、人によっては複雑なシステムをさけて「仕事」「家」「それ以外」という単純なコンテキストだけで大きな成果を上げている人もいます。ようは自分のライフスタイルとの相談というわけです。
ここで書いたことは入り口に過ぎません。GTD の原書にもちょっと古いところがあるという点をヒントにしていただいて、その上で原書の膨大な実例を読んでいただければ、自分なりの GTD のカスタマイズ方法が見えてくるかもしれません。
というわけで自分への来週までの宿題は当然次になります。
過去1週間でやり残した・取りこぼしたタスクを再検討して、それをどのバケツに入れるべきだったか、コンテキストの構成を変更すべきかを考えること
さて、抽象的な話がだいたい片付いたので、次回からはちょっと実践的な話題に入ります。
(p.s.)
折しも David Allen 氏が来日されるというニュースが入ってきました。6/13 日に百式の管理者田口さんの企画でイベントが開催されるそうです。参加されたい方はIDEA*IDEA での告知にご注目ください。
私もこのイベントにあわせて上京します! この日は誕生日。すばらしいプレゼントになりそうです。