スタイリッシュなチャリティーで世界を変える:Scott Harrison 基調講演 #WDS

(updated : 2012/07/13)
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小学校のころ、アメリカにいたときの話ですが、私は本を読めば読むほどお金を稼ぐことができるプログラムに参加したことがありました。

正確に言うと、そのお金は私ではなくて、チャリティーに支払われ、払うのは私の両親でした。「これだけの本を読む」と子供が誓いをたてて、目標が達成されると大人がチャリティーにお金を送ります。するとチャリティーの団体から小さなメダルがもらえるのですが、いまにして思えばちゃちな品物だったとはいえ、当時は誇らしく思ったものです。子供はメダルがもらえてうれしく、大人は子供が本を読んでくれて嬉しい、というわけです。

こうしたクリエイティブなチャリティーがアメリカには数多くあります。そしてそれをスタイリッシュに、まったく別のレベルにまでもっていってるのがWorld Domination Summit 二人目の基調講演をつとめた、charity:waterを率いるScott Harrisonさんです。

酒浸りのクラブオーナーがアフリカへ

Scott Harrisonさんは明らかに聖人君子ではありません(少なくともいまは)。保守的な生い立ちを否定するようにニューヨークに飛び出てクラブを経営していた彼は、人からお金をまきあげる方法を身につけ、すべてを列挙できないほどの犯罪に手を染め、放埓な生活の果てに借金も積み上がって疲れ果ててしまいました(写真は意識的にロレックスがみえるように写真に写っているこの時代の本人)。

道徳的に破産して、こうした人生とはまったく逆の人生を歩みたくなった彼は、アフリカの医療船で働く仕事に志願するという慈善事業に身を乗り出します。

それも平坦な道ではなく、彼の来歴をみて断る団体も多い中で、どうしてもすぐに埋めないといけない写真担当のポストがうまれたチャリティーが「絶対に女性スタッフを誘惑しないこと」「月に500ドルの運営費を払うこと」を条件に乗船を許可したという成り行きでした。

医療船の医者たちは形成外科を専門としていて、彼の仕事はカルテのために患者の写真をとることでした。患者たちは遠方から歩いてやってきた、およそありえないほどの大きさに膨らんだ顔や体の腫瘍
をもつ人々です。初日、患者の姿をみて彼は泣き崩れてしまったといいます。そして外科手術で尊厳をとりもどしてゆく人々をみて、彼の心に変化がうまれました。

こうした腫瘍や劣悪な健康状態を生み出す原因として、不衛生な水があることを彼はその目でみました。多くの人々は悪臭のする泥水をポリタンクをいれて持ち帰り、生活のすべてに使っているのでした。

彼が目撃した一人の小さな女の子は、濁った水の入ったペットボトルから一口飲むたびに吐き、もう一口飲んでは吐いていました。彼女からその水を奪い取って顕微鏡で検査すると、ありとあらゆる菌と寄生虫が培養する必要もないくらいにうごめいていました。

「すべての原因は水にある」それを確信した彼は、アメリカに帰ってアフリカにありとあらゆる手段できれいな水をもたらすためのチャリティーを設立しました。それがcharity:water です。

スタイリッシュなチャリティー、charity:water

Charitywater

charity:waterには他のチャリティーにはない、クールとしかいいようのない特徴があります。まず、募金されたお金は100%現地に届きます。彼はこれを最初から理念として掲げ、実際のところどのように運用するかはあとで考えることにしたといいます。

募金されたお金がどの井戸を作るために使われたのか、どんなフィルターを購入するために使われたのか、その村はどこで、どんな場所なのか、すべてはGoogle Map上で確認することができます。

最初の献金を集めるために彼は来場者にそれと知らせずに昔のクラブ仲間に呼びかけてパーティー主催します。しばらくたって、彼らの払ったお金がアフリカに届いているという連絡をうけた来場者たちは驚きます。大半は「どのパーティーのことだ?」とわからなかったそうです。

運営費を企業やセレブからの献金でまかなうことにしたcharity:waterはクリエイティブなポスターや広告を使って、認知度を上げていきます。

「誕生日をささげる」キャンペーン

Birthdays can change the world // a story from charity: water fundraisers from charity: water on Vimeo.

冒頭で書いた「読書をチャリティーに」と似ているのが、charity:waterがしかけた「誕生日をささげる」キャンペーンです。「自分の誕生日をチャリティーにささげる」ことを誓った人は、周囲の人に誕生日プレゼントやパーティーはいらないので、かわりにcharity:waterへ献金してくれるようにと頼みます。

こうした口コミを内包した手法で、たとえば7歳の子供が親戚、友人へと口コミを広げて数万ドルを稼いだという例もあるそうです。誕生日だけでなく、ハネムーンをささげた人は結婚記念に一枚の写真をとるだけにして、新婚旅行分のお金をすべて献金するなど、動きはどんどんと広まります。

こちらをご覧いただくと、とある村に井戸を作るプロジェクトに何ドルかかっていて、どれだけの人や、誕生日プロジェクトが貢献したのかがわかります。

また、それぞれの人の貢献が個別ページで表示されていますので、すばらしい自己プロモーションになっているのもいいですね。(横道にそれますが、自分が率先した献金プロジェクトでこれだけのお金が動いたというのは履歴書に書いて評価してもらえたらなおいい気がします)。できたての私のページはこちらです

全員が誕生日をささげると決めた

Charitywater2

こうしてうまれたきれいな水は、その村のすべてを変えてしまうといいます。何時間も苦労して水を運ばなくてもよいので、女性や子供達は危険で身体に障害を負いかねない作業のかわりに教育をうけ、商売を営み、弟や妹の面倒をみることができるようになります。水運びの問題を解決するだけで、フランスの総労働時間に匹敵する年400億時間が開放されるのです。

また、きれいな水のおかげで病気は減り、医療費は教育や生活レベルを上げるために使用できるようになります。なによりも、きれいな水を確保できた村では、人々が尊厳を手に入れることができるのです。

大成功を収めて、いまも急速に成長しているcharity:waterですが、道のりはまだまだ長いといいます。アフリカの水問題を解決するには100億ドルが必要とされていて、彼の活動もまだまだバケツの中の一滴の水にすぎません。

「そこで君たちの出番だ」壇上でScottは真摯な声で呼びかけました。ここまで話したのだから当然献金してくれるよね?などという賢しげなそぶりなど一つもない、どことなく怯えたような姿でした。「君たちは、口コミを知り尽くしたブロガーや起業家と聞いている。お願いだ。君たちの次の誕生日をささげてはくれないか。そしてこのプロジェクトを広めてくれないか」

満場の参加者が全員その場で起立したことは言うまでもありません。

スケールするチャリティー

Rig

私がcharity:waterの話をきいて心から敬服したのは、Scottがチャリティーを最初からブランドとして扱い、参加することでまるでアップルの製品を所有するような特別な気持ちになれるように設計していた点でした。

また、チャリティーの広め方をウェブとソーシャルメディアに求めることで、ランニングコストを低く抑えたままスケールすることができた点も見逃せません。

charity:waterには井戸を掘るためのリグをクラウドファンディングしたプロジェクトもありますが、いかにもありがちなみすぼらしい重機の写真ではなく、イラストレーターでブラシアップした画像をページに使い、実際のリグが井戸を掘るために起動するたびに自動でツイートが送信されるようにしています。リグの現在地は常にGoogle Mapで追うこともできます。すべてが参加者の気持ちと、口コミを狙っているのです。

「いまこそ、私は美しくなった」

最後にScottは痛ましい話と、美しい話をシェアしてくれました。

一つ目は彼らが井戸を掘りにきたときいて、現地の人が教えてくれた、数年前ある女性の身の上に起こったできごとです。

彼女の家は近くの水場から4時間の場所にありました。そして軽いポリタンクを買うお金もなかったため、甕をかついで往復8時間の水運びを毎日していたといいます。しかしその日、ついに力尽きた彼女は、村の入口で甕を滑り落とし、甕も、水も、失ってしまいました。憤慨した村の男たちは彼女を近くの木に縛り首にしてしまいました。

「この女性のために、私たちは間に合わなかった」Scottはショックをうけた私たちにむかって続けます。「でももう一つの村では、間に合ったんだ」。

その村には、水たまりほどの大きさの泥まみれの湧き水しかありませんでしたが、charity:waterがコンクリート製の水場を作ったことで人々は汚い水を争ってくむ必要がなくなりました。人々は水が汚れているときには誰ももっていなかった食器の洗い場を木と針金で作るようになりました。そして女性たちは生活の水だけでなく、身の回りのためにも水が使えるようになりました。

一人の女性はそれをこう表現しました「いま、私は美しくなった」と。

Scottは続けます。「そんなことはないんだ。彼女は私たちがくる前から、ずっと美しかったと思う。でも水のおかげで、彼女は自分で自分が美しいと思えるようになったんだ」

自分が変わることで世界も変えられる。Scott Harrisonはいままさに、アフリカを征服し始めているのです。

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