GTD 再入門 (1) なぜ、いまさらもう一度 GTD なのか?
GTD がアメリカで爆発的に流行して数年が経ちましたが、彼の地でも人気は一巡して、だれもが GTD について一通り知っているかのように振る舞っている空気が漂っています。
日本ではといいますと、2005 年に GTD を紹介したころに比べて認知度は高まったものの、知っている人は知っているという程度のような気がして、大きな流行となる以前にしぼんでしまった感があります。
しかし、GTD をとりまくアプリケーションやサービスの状況は数年前よりも格段にそろってきていて、今では自分にあった GTD の実装をいろいろと選べるようになってきています。
いろんなアイディアが出そろった今だからこそ、このへんで GTD をもう一度復習して、多くのブログで網羅されたベストプラクティスを集めてみたいと思い、これから毎週火曜日は GTD の日ということで連載にしたいと思います。
だんだん仕事を任されはじめて忙しくなってきた新入社員や、GTD の本を読んでみたけれども違った切り口で読んでみたいという人を対象にして書いていますが、もう GTD なんて知ってるよ、という人でもなにかしら発見があるように工夫したいと思ってます。
なにより私自身が GTD の一介の修行者にすぎませんので、もう一度原典をひも解きながら、新しい発見に期待しつつ書こうと思っています。
そもそも GTD って何?
GTD は「Getting Things Done」という David Allen の書いた仕事術の本の頭文字をとった略語で、もともとの英語のニュアンスとしては「仕事を片付ける」といった感じです。
GTD が数年前に流行した頃は、おりしもスマートに仕事をこなそうといろいろと工夫を凝らしていたギークたちの間で「ライフハック」なる言葉が誕生して急速に受容されていた時期でしたので、一時期は「ライフハック = GTDをすること」と受け止められていたこともありました。
そういうわけですので、何もしらない人に GTD を説明しろと言われたら「David Allen が提唱した仕事術だよ」と答えてもいいですし「ライフハッカーの間で流行した仕事のプラクティスだよ」と答えてもいいわけです。
でも、本当に GTD を知らない人に一言で魅力的に説明しろといわれたら、私はこう答えるでしょう。**「仕事を楽しく片付けるための、近道だよ」**と。
GTD はなぜ「ストレスフリー」の仕事術と言われるのか?
数日前、我が家では台所のゴミをたくさん捨て、場所を作って新しい食器棚を置きましたが、それが台所周りのストレスを一気に解消してくれました。それまではどんなに時間をかけても整理整頓ができなかった台所が、たった 10% の余剰空間が生まれることによって格段に整理しやすくなったのです。
理由は簡単です。100% いっぱいになった食器棚では、整理するために右の皿を取り出しても、左にはそれを入れておく場所がなくて困ってしまうからです。ただそれだけのことですが、そんな困難がたった 10% の余剰空間で解消されてしまうのです。
あなたの頭の中でも、同じことが可能だとおもってください。
私たちは日々それこそ何百というタスクに追い立てられるようにして生きています。それらは「あの仕事を片付けなければ」という大きなものから「定期券をどこに置いたのか調べなきゃ」といった些事に至るまで、無数にあります。これらのタスクは常に私たちの脳という CPU の力を消費しています。
頭脳が本当に集中すべきことに 100% 集中できているのならいいのですが、多くの場合、私たちは「いま、ここで」はできないタスクに気を取られ、いまはどうすることもできないのに「やらなきゃいけないことがたくさんある」というストレスの重荷と戦っています。David Allen にいわせると、こうした、タスクが宙に浮いたままの「閉じていない状態」が「なんとかしなきゃ」というストレスを生み出すというわけです。いっぱいになった食器棚と同じですね。
GTD では、普段の生活にたった二つの習慣を取り入れることでこの状況を軽くしてしまいます。それは**「すべてを頭の外に取り出す」と「いま、ここでできることに集中する」**という習慣です。それが GTD がストレスフリーの仕事術と銘打たれているゆえんです。
GTD は完璧な仕事術ではない
GTD の詳細は次回以降もう一度復習して、もう一度「今」の最新のアプリケーションや、ツールでどんな実装がされているのかを検討するとして、その前にGTD の限界も書いておく方がいいと思います。
GTD の熱心な信奉者は GTD こそが完全無欠の仕事術だと言い張ることもありますが、私はむしろ逆だと考えていて、GTD はどこか穴だらけで、机上の空論のままに残されたところが多い仕事術だなあ、と感じています。
むしろこうした「穴」が意図的にたくさん空けてあるおかげで、ユーザーである私たちが自由に埋められるように作ってあったのが、GTD が非常にウケた理由なのではないかと思ってます。
当ブログでも GTD を実践するのに有料無料のいろいろなアプリケーションを紹介してきましたが、本来 GTD はそれほど設備にお金を当投じなくてもできるものですし、そもそもコンピュータの上でのタスク管理について原書ではあまり触れてはいません。
ですので、GTD は Remember The Milk を使いこなすことでもなければ、Omni Focus を買わなければできないものでも、Hipster PDA がなければできないものでもありません。
もっというなら、GTD はあなたの給料を上げてはくれないかもしれませんし、仕事がうまくできることを保証するものでもありません。神秘的な力でとたんに仕事が消えてしまうものでもなければ、難しい決断を代わりにしてくれるものでもありません。まして、身長が伸びたり、健康になったり、異性にもてたりもしません。
しかし GTD のワークフローは、嵐のようにやってくるタスクに精神的に追いつめられるのではなく、常に「いま、ここで」できることだけに集中する力を与えてくれることを通して、人生に余裕を生み出します。それが GTD の唯一にして最大の目標です。
余裕があれば、あとはそれを使って今までできなかった多くのことが可能になります。あるいは異性にもてることだってあるかもしれませんね(笑)。
GTD 流の仕事術の訓練:SVO 構文の ToDo 術
今回はイントロダクションですので具体的なことはあまり書いていませんが、「David Allen の本が届くまでの間、あるいは今後この連載をいっさい追わなくても、今すぐに実践できる GTD 流のプラクティスを一つだけよこせ!」と言われたら、いろいろある中から、私は次をおすすめします。
仕事をいきなり始めるのではなくて、まず手を止め、メモを用意し、次の質問を自分に問いかけます。 「次のアクションは何か?」 「What is the Next Action?」 そして次の5分、次の10分という具合に短い時間を区切って、その時間の間だけ作業を行います。なんだか方向性がぼやけてきたなら、もう一度手をとめて、「次のアクションは?」と問い直します。 このとき「アクション」というのは物理的にどんな行動をとっているかを具体的に示している言葉で、「主語」と「動詞」、そして「目的語」としっかりとイメージできるようにしておくのが良い訓練になります。
たとえば「あの仕事を片付ける」というのではまったく具体性がありません。「Word を立ち上げて、報告書の本文の一段落を書く」とか「机の上の本を所定の場所に戻す」といったくらいに具体性があった方が良くなります。
たったこれだけの簡単なルールですが、GTD のエッセンスはこのルールのなかにつまっています。
次回は決めてませんが、原書の章立ての順にとらわれずに、きままに GTD への再入門を続けたいと思います。