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人間にも遭難信号があれば…?



電信機

仕事で北極海の航海が続いている@mehoriです。

先日、データを船舶無線の電信で送るために無線機に向かった時のことです、ディスプレイに見えた「DISTRESS」の文字に血が凍りました。本来「悲嘆」「心痛」を意味する言葉ですが、海の上で目にするとそれは特別な意味「遭難」を意味します。

ディスプレイに示された電文には「北緯6度、東経158度」と書かれていました。いま、この瞬間、地球を半分回った熱帯のどこかで、誰かが遭難信号を送っているのです。

それでつらつらと思ったのは、船には遭難信号があるのに、人間でそれに相当するものはなんだろうか? ということでした。

間違いではできない遭難信号の送り方

無線機には特別な赤いボタンがあって、特定の操作をすると、自動的に遭難信号が送られるようになっています。それは:

  1. ボタンの安全蓋を外して、強く押す
  2. ブザーが鳴り始めるので、そこでもう一度同じボタンを押す
  3. ブザーが鳴り終わるまで押せば、信号は無事送られる

最初のボタンを押す行為もけっこうな覚悟をもってやらなければいけませんが、その次の動作も、ブザーが鳴るのが終わるまで強い意思でやりとげなくてはいけません。冗談事ではありませんので、間違って押すことが不可能なように作ってあるのです。

遭難信号を近海でうけとった船は、遭難のために必要な手段を講ずることが義務付けられています。遭難しているということは危険な海域である可能性もあるわけですから、おいそれとこの信号を送ることは、他船を危険にさらすことでもあるのです。

人間にも遭難信号が必要…?

この仕組みをみて思ったのは、人間にも同様に、冗談ではない危機、特に精神の危機におちいったときに送ることができる遭難信号があったらいいのにということでした。

自殺防止のためのさまざまな取組や、援助できる人がいるのは知っていますが、もっと取り返しのつかない一歩としての信号です。

このブザーを押すことは、自分が抜き差しならない危機にあることを、全世界に向かって開示します。そしてそれに対してアクションを起こす人がいる可能性がありますが、その人に対してすべてを開示しなければいけません。これは安直に押していいボタンではなく、人生すべてを停止しかねない、そのかわりに危機的状況におちている自分に対してアクションを起こしてほしいという世界への訴えなのです。

ひょっとするともう死んでしまいかねないような危機にあるときに押すことができる、最後の頼みのシグナルがあったら、あるいは助かる人もいるのだろうかという安直な想像にすぎません。

ええ、シグナルを送ったからといって、その海域にきてくれる船があるとは限りません。おおかたは到着した頃には手遅れでしょうし、タイムリーに来てくれたとしても、助かる可能性はかなり低いでしょう。海は大荒れか、船自体に損傷があるか、とにかく大変な危機にさらされているはずだからです。

しかし誰も何も耳にすることなく、ただ静かに沈んでゆくことだけは避けられます

ディスプレイに写っていた遭難信号の送り主がどうなったか私は知りません。ここからでは確認のすべがないからです。でも確かに、この信号を送った人は、この時間、この座標にいたはずなのです。

私が、そして世界中が、それを耳にしているのです。


著者について

堀 E. 正岳

「人生を変える小さな習慣」をテーマとしたブログ、Lifehacking.jp 管理人として、仕事術、ライフハック、テクノロジー、文具、ソーシャルメディアなどについて執筆中。2011年アルファブロガー・アワード受賞。Evernote ライフスタイルアンバサダー。ScanSnapアンバサダー。この他のブログに、ライフ×メモ 、Climate+を運営しています。

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