[GW Reading3] ジンメル・つながりの哲学
一見ライフハック的にはまったく関係のなさそうな、いえ、分野から言うと本当に関係ない本を紹介します。「ジンメル・つながりの哲学」はジンメルという思想家を通じた社会学の入門書です。
社会学とは何か? 手短に言うなら人間の社会の成り立ちや仕組みを理解しようという学問です(多分)。**社会学の何が面白いのか? **それは我々が属しているこの「社会」を全体として捉えたり、個人個人の動きから説明することで、社会とは何か、個人とは何か、個人は社会のなかでどんな役割があるのか、ということが見えてくる楽しさです(多分)。ライフハックと何の関係があるのか? まったく関係ありません。ただ、非常にヒントになる考え方がたくさんあり、「自分」というものや、他人とのコミュニケーションについて考え直すきっかけになりました。
著者の身の上話がたくさん出てくるこのユニークな哲学入門書はジンメルの形式社会学の解説を通して、「社会に自分の居場所がないのではないか」という不安感や、「本当の私」とは何か、他人とのコミュニケーションとは何か、競争をすることとは何か、といった疑問を解剖していきます。
「私と社会」を考えると、本当の自分が見えてくる
読んでいて膝を打ったのは第四章、「社会の成り立ちと『本当の私』との関係」の箇所です。第一章から第三章までは著者自身の紹介とジンメルの略歴、そして社会学という視点についての紹介で、四章からが本題に入っていきます。
著者はジンメルを導きの糸として、「自分の居場所はどこにあるのか」、「自分をほんとうにわかってくれる人はいるのか」、「ほんとうの私とは何か」、といった疑問に視座を与えていきます。それは社会的な自分(たとえば会社にいるときの自分)だけが本当の自分なのではなく、自分だけでいるときの自分が本当の自分なわけでもない、実はその両方をまたいだ「他人とつながっている私」という視点こそが、翻しては「自分」なるものを決めているという視点です。
「本当の自分」とは自分の内側に向かってタマネギの皮をむくように探しても見つかるものではなく、周囲の人とどのような関係をもっているかが「自分」なるものを決めてゆく、という考え方なのですが(書店で手に取った方はぜひ 105 ページと 122 ページの挿絵をご覧ください)、ちょうどこれを読んだとき、同時に「7つの習慣」の後半部分、対外的な習慣について読んでいた時期でもありましたので、非常に感銘を受けた記憶があります。
本の後半は「嘘」について、他人とのコミュニケーションについて、ルールを守った闘争の生み出すダイナミックな人間関係について、最終的にはジンメルの貨幣論について解説していきます。
もう一つおすすめなのが終章の「<つながり>を作るための三つの原則」という項です。ここでは著者がポスト・バブル経済時代の、他人との関係に傷つきやすい私たちが他者との関係を回復してゆくために必要な原則を、それまで解説してきたジンメル社会学に寄り添う形で提示しています。あたりまえのことが書いてあるのですが、本をここまで通読したあとだからこそ「ああ、わかる」という内容になっています。
このとおり、著者の感想や身の上話が多く入った本ですので、時折どこまでがジンメル自身の哲学で、どこからが著者の考えなのかが判然としていないという欠点はありますが、このページ数でそこまでの専門的厳密性を求めるのは酷というものでしょう。
実用書というよりは、一般の読者に向けて非常にわかりやすく書かれた社会学・哲学の入門書ですが、一歩踏み込んで読み込むと、他社とのコミュニケーションの問題、競争社会を読み解くヒントがあるように思えます。
人間くさくて、ぬくもりのある社会学の入門書です。