SnapChatあらためSnap社が変えるカメラの、撮影の常識
アメリカの若者世代で絶大な人気を誇っているSnapChatが、Snapと会社名をあらため、初のハードウェア製品を発表しました。
装着するのになかなかの勇気がいるメガネデバイス Spectaclesは、スマートフォンとBluetoothで連携して通常は10秒、最大30秒の動画を撮影してSnapChatに投稿することが可能です。
これだけをみていると、失敗したウェラブルデバイス、Google Glassの再来というようにも見えますし、所詮SnapChatの宇宙の中だけの話なのでしょう? とスルーしてしまいたくなりますが、リリースをみているとなかなかどうして、野心的なビジョンがみえてきます。
Snap社が目指す、両手を使わずに撮影できる人間の視界と同じ動画の世界は、VRの世界と接触していた新しいメディアへの挑戦なのです。
スマホをかまえる? そんなの古い古い
まずSpectaclesのプロモーションビデオをみてましょう。定義どおりにリアルが充実してそうな若者たちが楽しそうにスケートボードを楽しんだり、人生を楽しんでいるようにみえます。
しかしよくよく考えてみると、なにかに気づきます。この動画自体がSpectaclesで撮影されたものなのです。そしてそこには、いまは不可能な視点の切り取りがあるのです。
スケートボードに乗ってトリックをしながら撮影したり、すれ違いざまの友人の笑顔を撮影したりといったことを、この動画ではスマートフォンをかまえることなくおこなっています。
スマートフォンをかまえる姿勢や、液晶を覗き込んでいる様子に私たちは慣れっこになっていますが、あれはどこか体面を拒絶して機械に視線が吸い込まれている面があります。Spectaclesならば、お互いを見つめ合いながらでも動画が撮影できるのです。
ここでは、アクションカメラをヘルメットの上につけるといった芸当もしていません。そして認めましょう。あれはすごい動画がとれるからなんとか耐えられますが、そうでもなければあのタケコプターのようなセッティングはかなり異様なのです。SnapChat世代なら吹き出してしまうことでしょう。
メガネのデザインはさておき、これは「スマホをかまえる」という状況自体を消し去ったデバイスなのです。
人間の視界に近い動画
実際に撮影された動画をみても驚きます。Spectaclesは人間の視界に近い動画を撮影するとともに、SnapChatにアップされると、ポートレイトでも、ランドスケープでもシームレスに表示できる仕組みになっているのです。
動画を撮影するということは、これまでは必然的に「縦長」か「横長」かを選ぶことでしたが、これだと世界がそのまま切り取られてそこにあるような錯覚に陥ります。
つまりこれは、デバイスを装着するVRの体験のサブセットを実現しているといってもいいわけです。
またここでも、両手を使っている間も動画が撮影できていることに注目してください。カメラがもうそこには存在しないようにさえみえます。「撮影」を消し去った世界ですらあるのです。
Snapはカメラの会社
SnapChatからSnapに変わったホームページのトップにゆくと、そこには “Snap Inc. is a camera company” 「Snap社はカメラの会社です」という簡単な自己紹介があります。そのあとには、簡単なミッション・ステートメントが続きます。
私たちは、カメラを再発明することで人々の生活とコミュニケーションをより向上させることができると信じています。
私たちの製品は、人々が自分自身を表現し、その瞬間に生きて、世界を知って、ともに楽しい時を過ごすために役立ちます。
短いですが、これはとても野心的なミッションです。
まず、カメラを再発明すること。これはスマートフォンのカメラが既存のデジタルカメラの抽象化にすぎないことを踏まえ、撮影方法と表示方法も考え直してしまおうということでもあります。
そして2行目の、自己表現、瞬間、ともに過ごすというキーワードは、個性的な撮影、瞬間のきりとり、そしてソーシャルでの共有に対応しています。
既存のカメラにシェアを加えるのではなくて、撮影すること自体がシェアであるようなアプリとしてSnapChatは開始したわけですが、そうした破壊的な考え方がここに表明されているわけです。
実際のところ、Snap社のビジョンが実現してゆくか、それとも若者のあいだの流行で終わるかはSpectaclesや、そこから撮影される新しいSnapがどれだけ受け入れられるかによります。
しかしすでにSnap社は十分に破壊的なビジョンに立った上で、写真を、撮影を、映像体験を変えようと踏み出しているのです。
そう考えると、見た目はちょっとあれですが、このメガネ型デバイス触って使ってみたくなってきます。