セミプロブロガーの憂鬱 #09 ブログを読者を成長させる「サービス」と知る

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ブログは情報発信のツールといわれます。でもそれは「情報」そのものを発信することに価値があるということでは、必ずしもありません。

ブログは究極的には自分の興味に基づいて書くものですが、ブログは読者のためにも書いている部分もあります。このバランスが、10年続くようなブログを維持したいと思った場合にとても重要になります。

あなたはコンテンツを作っているのでしょうか? それともなんらかのサービス(奉仕、貢献)を目指しているのでしょうか? ブログの「成功」とは、どのような物差しで測られるべきなのでしょうか?###

このことについて最近、とても目を開かされた記事が “Public Parts” (邦題「パブリック 」)の著者である Jeff Jarvis のブログにありました。

「メディアと教育におけるコンテンツ vs サービス」と題したこの記事は、テレビや新聞といったメディア、あるいは教育が、なんらかの情報を伝えるコンテンツ・ビジネスなのか、それとも何らかの成果を求める「サービス」であるのかを議論しています。

多少単純化した議論ですが、放送時間を埋めること、授業のコマを情報でうめてゆくことを「コンテンツ」を提供するビジネスでとして考えた場合、サービスとは価値を追加して、その結果に対して責任を持つことであると Jeff は書いています。

When we think of ourselves as services, then we strive not to own products but instead to add value to a process. When we provide service, we become more accountable for the outcomes our clients achieve.

自分たちをサービスであると考えるとき、私たちはその製品、コンテンツを所有することを至上と考えず、それを提供するプロセスに価値を付加することにより重点をおく。そしてサービスであるということは、その受け手が達成する成果に責任を持つということだ。

しかし、と、ここで Jeff は釘をさします。この「成果」が単に「情報を山のように読者に伝えること」「テストでいい点をとること」こととして、コンテンツをリバース・エンジニアリングするとおかしなことになってしまいます。

たとえば模試でよい点数を取るためだけの授業、視聴者を集めるためだけの炎上記事といったように、成果をどのように測るかで、提供するコンテンツが変わるわけですね。

それよりは、公衆がその記事を読むことでどのように成長することができたか、どのような人間の完成をみることができるのかでジャーナリズムと教育を実装すべきではないのかというのが Jeff の主張です。

ブログに当てはめて考えると…

この話題はブログにも通じます。端的な例でいうと、もしブログの目的が収入を増やすこと「だけ」であるなら、それに対するリバース・エンジニアリングは意外なほど簡単です。

人が話題にしている話題にすべて乗っかり、記事を増やす。それだけでいいのです。あるいは自分ももっているもの(才能、スキル)を持たざる人に提供するという方法もあるでしょう。もちろんすべてがそうではないし、悪いことでもないのですが、セミナー・ビジネス、メルマガ・ビジネスの多くはこの典型をとっていますね。

しかしこうなると、「情報発信」は単に新規的なものに対する反射神経だけになりますし、今後ブログを書く人がどんどん増える中で、自分の特殊性はますます低くなってしまいます。

また、才能やスキルの違いを「利用」する場合は常にその差を埋めることなく続けるか、常に受け手を回転しないといけません。いわゆる「自己啓発セミナーの主催者は決して出席者に啓発されてほしくない」という矛盾した状況がうまれます。

それもまたひとつのあり方ですが、長い長い時間安定して続けたいと思った場合、私は「読者をどこに連れてゆくのか」という視点が根の部分になければいけないのではないかと思っています。

読者をはぐくむ

かつて人気ライフハックブログだった43Folders のマーリン・マンは「生産性を上げたないなら、僕のブログを読むのではなくて、どんなに小さくてもやるべきことを実行するべきでは」と書いていました。

本当にライフをハックしたいなら、生産性をどうやってあげるかというシステムよりもよりも目の前の小さいことをするんだ、というメッセージを繰り返すことによって、彼は読者を常にひとつの方向に向かって導いていました。それが彼のブログの「サービス」的な側面だったのです。

ブログのサービスはこうした使命だとか、ミッションステートメントの形をとらないこともあります。たとえば私は世間の話題をネタフルのコグレマサトさん(@kogure)から常に手に入れますが、ネタフルとは「すべてのネタに反応するブログ」ではありません。

記事数がとても多いのでまるですべてに反応しているようにみえることもあると思いますが、ネタフルの凄さはネタフルが何をネタとして扱わないかという選びとりにあります。これが、ネタフルの「サービス」なのです。

真面目なものでなくても、冗談や、ユーモアをその核にもっているブログもあります。個人の魅力が核となっている場合も。でも共通するのは、それに触れた読者が繰り返しそこにやってくることで得られるものがあるという点です。それがここでいう「サービス」なのです。

私のブログも、ひとつのことをサービスとして考えて更新しています。それは書いてしまうと魔法が消えるのでかけませんが、繰り返し読んでくださる読者にこの思いが届き、一緒に未来をみることができればというのが私の願いです。

ブログのコンテンツは記事です。でもその記事が落とす影はそのブログの目指すサービス的な側面なのです。あなたのブログは、どんな読者を育んでいますか?

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。