GTD 再入門 (5) カオスからクリアーまで、GTD の導入

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いまもよく覚えているのが、GTD を初めて始めたときのことです。理解もまだ進んでいないままでしたが、原書の第4・5章を開きながら、わくわくしながら物理的なモノと、頭の中のモノをすべて吐き出してゆく体験を楽しんだものでした。

あれから3年、それから何度も、何度も、何度も GTD を失敗しては、再起動するようになりました。今では最初の興奮は冷めてきましたが、それでも頭のなかのホワイトボードをきれいにしてゆく感覚は昔と同じです。

2週間空きましたが、今回は始めて実装する時に私が体験した落とし穴についてまとめておきたいと思います。

この部屋を全部整理するだって? うへえ!

もし David Allen が横についていて、コーチになって GTD を実装するのでしたら、彼は絶対に誰からも電話を受けず、新しい仕事をしない時間を区切って、半ば強制的に机から、引き出しから、本棚まで、片端から Inbox の中にものを放り込ませることでしょう。

理想的にはそうすべきなのですが、実際はそこまできれいに時間を区切るのは難しいですし、何年も何もしてこなかったモノの山を整理しようとするだけ で、時間はいくらあっても足りなくなって行くことでしょう。GTD をしているのか、整理整頓をはじめたのかわからなくなってしまいます。そして、**整理整頓は仕事を先送りする時の No. 1 の口実 **なのです。

あまり時間のない人がとにかく GTD 的なオフィスにむけて第一歩を踏み出したい時には次の呪文で、全てのモノを2つにわけてゆくことをおすすめします。それは:

「これで何をするんだっけ? 次のアクションはなに?」

というものです。すべてのモノを「アクションのあるもの」と「アクションのないもの」に分離してしまうわけです。

間違えやすいのは「アクションがある」というのは「大事だ」ということとは違う点です。投函すべき封筒、目を通すべき書類、約束事を書いた付箋、と いったモノはとるべき行動があるので、「アクションがある」モノです。それに対して、大事だけど今使っているわけではないメモ、いつか役に立つかもしれな いのでとっておきたい新聞の切り抜き、といったモノはレファレンスであって、「アクション」は生じない物体です。

整理整頓や、しまい方を気にする暇もあらばこそ、全てのものを「アクションがあるもの」と「ないもの」の2つに分類し、いったん「アクションがないもの」などはファイルボックスに封印してしまうのもいいでしょう。私はこれを仕事の DMZ (非武装地帯) を作成するなどと言ってます。

なお、「ファイルボックスを整理する」というプロジェクトをリストに加えるのを忘れずに!

頭のなかのスイープの落とし穴

最初頭の中のメンタル・スイープを行なっていたときには、自分では実行するつもりもない、つまらないことばかりが出てきた経験があります。例えば:

  • ハーブの栽培方法を調べること:たまたま読んだ小説で興味があっただけで、その後一度たちともハーブを栽培したことなんてない(気の迷い)

  • もっと自炊をすること:これは単に願望を書いているだけで、本気でやるつもりはなかったらしく、Next Action を設定することさえ忘れたまま消えました(コミットするつもりのない願望)

  • ○×△が不満!なんとかならんのか: 単なる内的独白に過ぎず、ユリシーズを書くつもりなら使えるメモですが、行動の指針にはならず、やはり Next Action を設定することなく消滅。

ハーブの栽培などは、本気でやるつもりだったらちゃんと R&D のプロジェクトにして、Next Action を作っていたはずですが、それさえもしていなかったということは私にとってはキャプチャーした時点で既に死んでいるプロジェクトだったわけです。

もちろん、何も出ないよりはこうしたことも含めてすべてを出し切ることが大事です。でも GTD はサイコセラピーでも、自動筆記ゲームでもありませんので、最終的には:

  • どのようなアウトカムを望んでいるのか? どうなったら満足なのか?

  • その方向にむけてアクションをとることは可能か?

という問いかけを使って、リストに加えるべきものを減らしていきます。これは最初の20回くらいの失敗でだんだんつかんできました。

ところで、リストに加えられないけれども、忘れるには忍びないものはどうするのでしょう? もちろん、それは思考のアーカイブに加えてゆくのです。

職場だけでなく、必ず家でも GTD を導入する

これは最初に GTD を実践する時にハマりやすいのですが、GTD を「仕事術」と捉えて職場での全てのモノにアクションを収集することをしても、家庭でのそれを忘れてしまうことがあります。

しかしそれでは、GTD を半分しかやっていないことになります。David Allen もおっしゃっていましたが、「100% 完全に頭が空なのと、95% の間には恐ろしい差がある。その 5% がシステムへの不信を生み出す」(Merlin とのインタビューより)のです。

GTD の目的の一つは「オープン・ループ』を閉じることです。これは「あれをしなきゃ…」と気になっている全てのことで、晩ご飯は何にするということから、不在通知の入っていた荷物の受け取りを何時にしようかということまで、すべてが含まれているのです。

職場のアクションをすべてリストに取り込んだなら、次は自宅や、買い物でやるべきことなどもスイープしてしまいましょう。心が軽くなりますよ。

電子ファイルはどうするか?

電子ファイルは物理的に存在するわけではありませんが、かといって HDD の中に何万というファイルがアクションが存在するものとしないものとで混在していると、それは目に見えないオープン・ループになります。

原書ではこうした電子ファイルの扱いがあまり詳しくありませんでしたが、ここについても物理的な本棚と同様、「アクションのある」ファイルと、「アクションのない」ファイルの最低の分類をした方がストレスは減るでしょう。

昨日紹介した「時系列ファイル整理 + デスクトップ検索」整理法はこうした点でも威力を発揮してくれていますので、ぜひご参考にしてください。

おわりに

駆け足で GTD 導入時の落とし穴についてまとめてきましたが、もちろん注意すべき点はまだまだたくさんあります。

次回はリスト、バケツの作り方をおさらいして、頭で理解したことをもう一度実践してみたいと思います。

p.s.

見よう見まねで、David Allen 流、マインドマップ式 GTD を始めていますが、これが非常に気持ちいいです。今まで2次元的だった思考が3次元的になったような、大きな自由を感じています。

これについては、ぜひ Lifehack@Nagoya イベントで報告したいと思います。

インタビュー記事も鋭意執筆中ですので、こちらも近日中に Gihyo.jp で公開したい、です。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。