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「コンテンツは有料のほうが面白い」に反駁する

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英語には “Beauty is in the eye of the beholder” という表現があります。Beholder というのは「見ている人」「観察している人」という意味で、直訳するならば「美とは、それを見ている人の目の中に映るものだ」となります。

ここ最近、ウェブのどこからか知りませんが「コンテンツは有料のほうが面白い」という奇妙に面白い言葉が漂流してきて、もう何度目になるかわからない思考をめぐらせていました。

結論から先に言うと、それは常に読者が決めることなのではないかと思うのです。面白さは、読者の目の中にこそあるのです。

面白さは読者が決める

私もこうした真面目くさった文章を書き続けて長いのですが、読者からの反応はその都度違っていて、興味が尽きません。これはよいものが書けたと思う日であっても反応が薄い日もあれば、どうしてこの記事に?と思うくらいの反響がある日もあります。

反響にもいろいろあって、単純にネタとして扱った話題が重要であったり有用なために反響が大きかった場合は私自身の貢献度は少ないといっていいでしょう。反響が反響を呼ぶことによって、「とりあえずブックマークしておいてあとで読もう」という人が膨れ上がる場合には、もうすでに話題は私の手を離れているといって間違いありません。

でも常に変わらないのは、「これは面白いかどうか」というコンテンツに対する判断を下すのは、読者なのだという点です。

もちろんそれは、コンテンツが有料か無料であるかとはなんの関係もありません。有料であればクオリティが高そうだというのは映画などのように設備投資が必要な場合だと比較的わかりやすいのですが、知的産物に対するそれの場合は作者がどこに何を発表したいかという判断以上でも以下でもないのです。

0 という特異点

ところで、ブログはなぜ無料で書かれるのでしょう?

Dan Ariely 氏は著書、”Predictably Irrational” で自身の専門である行動経済学的にみて、いかに「無料」というポジションがすべてを歪めるかについて章をまるごと割いて説明しています。

普通ならば手を出さない、でも無料ならば手に取らないと損をしたような気がするので手を出してしまう。無料なのだから得だろうと思っていたら、実のところ他の有料の選択肢に対する妨害策としてまんまと乗せられていた、などなどです。

逆に、無料であるからこそ果てのないリーチをもつことができる可能性もあります。お金を出してそれを読もうと思っていなかった人の手元にも偶然届いて、そこで何らかの印象や感動を残せるのではないかというはかない希望。

Ariely氏のいうとおり、0 はすべての可能性を変えてしまう特異点なのです。

絶対の成功を約束はできないものの、私自身がそうであるように、無料でなにかを届けているうちに時折仕事をいただいて、結果的に20冊ほどの本に携わる幸運も、たまにはあるのです。私は 0 に賭けているのです。

フリーなウェブの限界も?

一方で、ちょっと前まで存在した、このままウェブの世界が拡大してゆくならばどんなニッチなコンテンツでも十分な収益を上げられるはずだという幻想も、この1, 2年で反証の方が多くなってきた印象があります。

私にとっては、最初期からブログ界に君臨していたママブロガーの Dooce がセミリタイアしたという昨年の事件が特に記憶に残っています。

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バナー広告が次第にクリックされなくなり、ネイティブアドの一環で家族が特定の商品を使っている写真を撮ってくれという依頼が多くなってきて、彼女はあの一流の dooce らしさで「私は自分の楽しみのためにブログを書いていたのよ。なのに楽しいもののためにウエッって気持ちなるのは嫌だわ」と言い残してブログの更新を減らしています。

Dish の Andrew Sullivan氏も、去年ブログの前線から撤退した一人でした。彼の場合は「もう少し時間がほしい」が主な理由でしたが。その他にも、かなりの数、昔は更新してたのですがいまはもう記事がない欧米のブロガーがいます。

この状況に対して「でっかいペイウォール」をつくるべきだ、という論説もあります。つまりは大勢の(何万人というスケール?)のコンテンツを生み出す人が登録しているギルドみたいなものを作り、そのギルド内の記事をよむために少額の購読制にする仕組みが必要だという論説です。はて、どこかで聞いたことがあるような…。きのせいかな。

Dooce さんに関しては、セミリタイアしてからも数日に一度は更新がされており、実のところ最近のほうが「面白い」というジレンマがあります。私は dooce に、いつもの通り、ちょっと下品で乱暴なブログを更新し続けてほしいと思うのですが、それだけではなかなか済まないものですね。

私は贈り物をしたい

こうした点を踏まえて、私は、これはもう私個人の愚直で、ひょっとするともう時代遅れになりつつある主義なのですが、出来る限り多くの贈り物をしたい。それだけを念頭に二つのブログも、ニュースレターも、基本的に無料で書いています。

幸いというべきか、いまのところ私はこれらに生活をかけてはいないので、一人の研究者が、夜に書斎で一人になってからなしうる世界へのささやかな発信として様々な試みをしているに過ぎません。

それでも、すでに多くのものを、私はこの孤独な作業から得てきました。ブラウザの向こうにいた憧れの人と友人になったり、議論を交わしたり、自分だけでは考えも及ばなかったアイデアをもらったり、あるいは共同で本を書き上げたり。値札をつけろといわれても 0 を書くスペースがないぞ!と言い返さざるを得ないほど多くのものをです。

すべては、結果的に起こったことで、あらかじめ設計してエンジニアリングして起こったことではありません。

投稿を押したあと、この記事はどこに届くのでしょうか? それがわからないから面白いのです。

読んでくださった人の中に、声をかけてくださるひとはいるでしょうか? ときどきあって、それが素晴らしい出会いにつながったりもしました。だから本当に面白いのです。

私はきっと面白いだろうと思って書いています。でもあなたはそう思うでしょうか? それがわからないから、投稿してみるのです。

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著者について

堀 E. 正岳

「人生を変える小さな習慣」をテーマとしたブログ、Lifehacking.jp 管理人として、仕事術、ライフハック、テクノロジー、文具、ソーシャルメディアなどについて執筆中。2011年アルファブロガー・アワード受賞。Evernote ライフスタイルアンバサダー。ScanSnapアンバサダー。この他のブログに、ライフ×メモ 、Climate+を運営しています。

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