「残業などやめてとっとと家に帰りやがれ」長時間労働と能率低下をバランスする

「残業などやめてとっとと家に帰れ」“Go the F*** Home” この刺激的なタイトルは、Pam Selleさんがフィラデルフィアで行われた Igniteで行ったライトニングトークの題名です。

Ignite は20枚のスライドをちょうど15秒ずつ表示して行うプレゼンなので、場の雰囲気もくだけていて、動画をみれば分かるとおりこんなタイトルの発表も快く受け入れられているようです。

「どれだけ自分が仕事をしていて、いっぱいいっぱいかについて愚痴をいってばかりの人にはもうたくさんだわ!」

こう切り出した Selle さんには、ちゃんとした理屈があります。働いて給与を得ている人間は、経済学的にみれば「生産要素」という資本でしかないという側面があり、ほとんど同じ給与で長く働けば働くほど、時間あたりの自分の価値は低くなってしまいます。

また、長く続ければ続けるほど何かを成し遂げているつもりになりますが、実際には時間とともに能率が下がっているので、ある損益分岐点からは損の方が大きくなっているというわけです。ここで彼女が引用しているのが、建築現場における長時間労働と能率に関するデータです。一日8時間の現場をたとえば10時間に引き延ばすことで実際に工期は短く、仕上がりは同程度になるのかという研究です。

Fig3

縦軸は能率を規格化して 1 から減ってゆくように表示した指標で、横軸は週 50 時間のスケジュールの工期が何週間に延びたかを示しています。40時間労働から50時間に増やしたと仮定すると、20%の時間増に対してすぐに能率は 0.76-0.84 程度に落ちてしまっているので、あまり意味がないといえます。

建築ということは肉体労働であり、疲労の性質は知的生産者とは違うことは念頭におかなくてはいけませんが、ある時点から能率の下がり方が損をもたらすかもしれないということは考えておいていいでしょう。

Selleさんはこうして無駄に仕事が長くなった結果、仕事時間に Twitter や Facebook をして無言の(あるいは無意識の)抵抗をする人も多いかもしれないけれども、それこそが二重の無駄だといいます。「早く帰れば、罪悪感なしにネットで遊べるのに!」というわけです。

「だから、とっとと家に帰りやがれ! 人生を生きろ!と言いたいのよ」

「仕事以外に2つ以上やるべきことを思いつかないなら、それは人生を生きていないということ」

「それは、仕事に逃げ場を求められなくなったときのための非常口」

と、Selle さんは続けます。少なくとも観衆はこのスピーチを気に入ったみたいです。

さて、実際には、どうあっても片付けなければいけない作業や、そもそも作業量と人員の見積もりが間違った仕事をこなさなくてはいけないのも現実です。

しかし休んでこそ効率が上がるというのも当然の話です。時間をまわすことで物事を片付けるのが当然と思っているとなかなか気づけないかもしれませんが、負荷と効率とはバランスさせたほうが結局はメリットが大きいのです。

でも、どこがそのバランスのポイントなのか、見いだすのは至難の業です。放っておけば、時間を費やして、家族との時間、自分の時間、人生の時間を消費することでしか仕事ができなくなってしまいます。

Selle さんは簡単な一言で一刀両断します。

私は帰らせてもらうわ。どうするかって? それはあとで考える

そう、人生を犠牲にしてから考えるのではなくて、人生を取り戻してから考える。それでもいいのかもしれません。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。