Google+ は「ソーシャル・ネットワーク」ではない
先日の記事を書いてから、さらに Google+ が加速しています。まだ今のところは楽しい時間の費やし方にすぎませんが、その一方で新しいコミュニケーションの可能性がみえてきて、最新の動向をうかがわずにはいられません。
ただ一つ、Google+について日に日に違和感を感じるのは、Google+ が「ソーシャルネットワーク」であるというとらえかたです。ソーシャルネットワーク、SNSといえば Facebook ですが、Google+ はそれと同列においていいのか? そもそもGoogle+はSNSではないのでは? そういう意見が周囲でもよく聞こえてくるようになりました。
どういうことなのか、現時点での考えをまとめておこうと思います。### 非対称な戦い
Facebook と Google+ は両方とも SNS であると考えられていますので、対立軸で論じられることがほとんどです。そして Facebook はすでにユーザー数が7.5億人であることから、Google+ に勝ち目はないという論調もみかけます。
しかしみたいもん!のいしたにさんの記事が非常によくまとめていますが、この二つのサービスは、会員数の戦いではありません。そもそも、二つのサービスで「勝利」に必要な条件が違うからです。
だから、ことfacebookとの戦争において、実はグーグルプラスはデータ量で上回ればいいのであって、ユーザー会員数で上回る必要がないのです。
つまり!
グーグルがグーグルプラスでしかけた戦争はそもそも勝負の土俵が違うんです。
facebookがグーグルプラスに勝つためには、会員数で上回っている必要があるのに、グーグルプラスはfacebookに会員数で勝つ必要がないんです。この戦争のしかけ方は、なんともうまい!うますぎる!憎たらしい!
もう少し言うと、グーグルプラスはソーシャルメディアが余りにもメディアの方向に行ったことに対するテクノロジー会社であるグーグルの答えなんですね。
このことを、また別のアングルから説明しているスライドが Vincent Wong の Google+ 上でシェアされた「Google+の本当の意味(ソーシャルではないよ!)」というスライドです。
ここで Vincent Wong は「Facebook のソーシャルと、Googleのソーシャルは違うよ」ということを指摘した上で、「Google のソーシャルは、メールやドキュメントも含めた情報の共有とコラボレーション」だと結論づけています。
すごいのは、Google+ はスタート時にすでにFacebook とツイッターの特色であるはずのネットでの近況報告、リツイート、フォロー、いいね!などといった機能をほとんどすべて実装しているので、SNSのコモディティー化も同時に引き起こしている点です。未来を引き寄せつつ、現在あるものを陳腐化している、というわけですね。
非対称な関係性
Facebook と Google+ の違いは人間関係を表象する方法にも明確にみられます。さきほどの Vincent Wong のスライドでもこのように説明されています。
Facebook の関係は互いを「フレンド」として了承することによる Social Contract - 社会的契約の形を取るのに対して、Google+ の関係はツイッターのような一方的なフォローが存在し、かつ、一部のサークルにのみ情報を共有するという非対称な形をしています。
(以前 Facebook にいた Yishan Wong が Quora で「そんなことはない、Facebookでも相手を選択して情報共有はできる」と舌鋒鋭く批判していますが、まあ、Google+ ほど手軽にそれができないのは事実です)
「ソーシャル・ウェブ入門」の著者である滑川海彦さんはこの非対称の関係が、ウェブ上の有向グラフであるハイパーリンクと同じだと指摘しています。
つまり、Google+ はサービスとしての方向性も、機能も、そもそもの人間関係を表象する仕方も、Facebook とは違うというわけです。
「人間関係だってネット上ではつまるところハイパーリンクであり、それはページランクで重み付けできるはず」ラリー・ペイジがそのように言ってるのが聞こえる気がします。
現実の関係をネット化? ネットそのものが現実に?
こうした違いは、Facebook と Google+ の間で利用される用語の違いに如実にあらわれています。たとえばサークルという用語は、社会学でいう Social Circle の概念を思い出させます。Google を離れて Facebook で働いている Paul Adams の同名の本が Google によって出版を差し止められていたというニュースは耳に新しいですね。
ところで、Social Circle には定義上面白い部分があります。Wikipedia より:
A Social circle is distinguished from a social pyramid in that there are two perspectives that can be used to describe a social circle: the perspective of an individual who is the locus of a particular group of socially interconnected people; and the aggregate perspective of a group of socially interconnected people, such as cohesive blocks.
つまり Social Circle では「その人の視点」と「集団の重ねあわせから生じるグループの視点」が動的に結び合わされているというわけです。
なんだか Google+ のサークルと似ていないでしょうか?
私が誰をフォローするかが「私の視点」です。そして情報の共有やコメントを通して、他の人が私をサークルに迎え入れてゆく過程が「グループの視点」です。このグループは、いまのところ他の人からは見えないようになっていますが、そのことが「猫好きなサークル」や「写真好きのサークル」がなんとなく出来上がっていくのを阻害してはいないようです。
固定された Facebook ページがなくても、自由な情報のやりとりのなかから Social Circle が立ち上がりつつあるのです。
10人の人を部屋においたら、自然に男女、ネコ好きと犬好き、あるいは趣味といったものの重ねあわせとしての Social Circle が生まれます。これはべつに、部屋のなかに「ネコ好きな人集まれ!」というポスターをはったから生じる現象ではなく、自然な会話のなかで「誰が自分と近いのかな?」という好奇心によって edge formation と feedback loop が生じ、自然にネットワークが形成されるのです。
Facebook ページも、非常に構造化された Social Circle を作る方法の一つです。しかし Google+ はよりプリミティブなネットワークを生み出す仕組みを機能に含んでいるといっていいでしょう。
まとめ
さて、考えながら書いていたらたいへんな長さになってしまったのですが、以上をまとめるとこんな感じになると思います。
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いしたにさんが説くように、Google+ と Facebook は少なくとも同じ方向性を目指したサービスではない
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Google+ には人間関係を表象する方法に不均衡が存在していて、それがむしろ現実における関係性をウェブページ上で表現する際にメリットとして働いている。人間関係だって誰が誰をどのサークルにいれているかというハイパーリンクとして表象。
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Google+ の共有機能は、固定化した Facebook ページやハッシュタグがまだなくても、情報の自然な共有とコメントを通して自然に Social Circle を生み出している。
そして非常に大事なのは、Google+ は現在のところグループ機能や、サークルの公開機能といったような、「さあ、この輪に加われ!」という意味でのソーシャル・ネットワークの機能を(今のところ)提供していないという点です。Google+ はそういう意味での「ソーシャル・ネットワーク」ではないのです。
Google+ にいま存在するのは、「任意に選んだ相手に情報を流せる」という機能だけといっても過言ではないでしょう。ただ、あまりに情報の共有が楽で、Six degrees of separation を飛び越えることを可能にしてくれるために、自然とソーシャルな構造が生まれてしまうわけです。
そもそも SNS の N は、Networking の N で、社会学でいうところの Social Networkとは別物です。Facebook は Social Network の一表象として非常に機能しています、しかしそれが唯一というわけでは当然ありません。
乱暴にいうと、ネット上で Social Network をウェブページとして表現しようとしているのが Facebook とするなら、Google+ は Social Network がそもそも可能となるための情報共有プラットフォームを提供するものなのです。
ネットそのものが「ソーシャル」化し始める音が聞こえませんか?