もう明日に回さない。仕事の先送りを防ぐ4つのマインドセット

tomorrow.jpg 先日とりあげた Dare と似ていますが、「先送り」と訳されることが多い Procrastination にも日本語に対応する言葉がありません。

Procrastination は「先送り」の意味だけではなく「ぐずぐずしている」「とりかかれない」「言い訳をいいがち」といった、罪悪感に満ちた心的状態を一言で言い当てています。

そのせいもあってアメリカには procrastination についての話題や本が数多くあるのですが、そのどれにも共通しているのが**「『やる気を出す』ことはなんの解決にもならない」**という点です。

まったく怠けている人が「やる気をだそう」と言っているならともかく、すでに仕事に向き合わなくてはと焦りを感じている人が「もっとやる気を出せばもっとできるはず」と考えるのは、意志の力があれば眠らずに一週間暮らせるとか、水のなかで息をしなくてもよいはず、と考えるのに似ていて、そもそも無理なことといえます。

しかも「やる気」で解決しようとすると、結果が気になるというもうひとつの障害が発生してしまう傾向にあります。

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上の図でみるように、本来今日一日でできる作業に対して、「これだけやりたい」という気持ちが先行してしまうばかりでなく、さらに恐怖や焦りのせいでこの落差が実際よりも肥大化してみえてしまいます。そこでこのストレスから逃れるために短期的な報酬をもたらす「遊び」「メールチェック」「雑用」に走るというサイクルが発生するわけです。

そこで procrastination に対抗するには、無理な約束を自分に課さないような仕組みづくりが大切になります。

これまでさまざまな本や考え方を紹介してきましたので、ここらへんで一度それらのマインドセットをまとめておこうと思います。以降の4つの対処法はどれが最も良いというものではなく、根っこでは同じ哲学をもちつつも、それぞれ当てはまる状況が違っているものだと思ってください。

マインドセット1:Neil Fiore の The Now Habit

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かなり前にとりあげた Neil Fiore 氏の The Now Habit では、「先送り」は「自分が思い描いている理想とのギャップの中で生まれる不安・不満・焦燥感からいったん逃げ出すための自己防衛手段」だとした上で、自分のなかの心的会話を修正することが重要だと提唱しています。

たとえば「〜しないと」「〜を終わらせなくては」という「〜しなければ」という心のなかの独白を、「これを実行することを選ぶ」「ここから始める」という具合に常にスタートを切る言葉に変えてしまうというものです。

The Now Habit については過去の記事、その1その2その3その4その5がありますので、まとめてどうぞ!

マインドセット2:Dan Ariely 教授の選択できる締切り

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予想どおりに不合理 」のダン・アリエリー教授は、外から与えられた締切りと自分で決めた締切りとで、達成率に違いがあるという事実に着目しています。

そこで大学の課題を出す際には、「今学期の課題はこの3つだが、君たちは自分たちが決めた締切りにあわせて提出するのでよい。ただし、自分できめた締切りに間に合わなければペナルティがある」という具合に相手が自発的にスケジュールを組むように促すことで課題の提出率と、成績を同時に上げることができたそうです。

もちろん実生活では締切りは外的に決められることが多いのですが、段取りを自分で決められるなら、同じテクニックで大きな仕事をブレイクダウンできるようになります。あとは締切りとペナルティをどのようにするかが工夫のしどころです。

マインドセット3:Gerald Weinberg の見回し

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著者がよく直面するといわれる「いきづまり」「Writer’s Block」も、先送りの一形態です。著作家であり、Weinberg on Writing という文章術の本でしられている Gerald Weinberg 氏は、「現状の認識」こそがこうした停滞を防ぐのに有効だと指摘しています。

この場合の「現状」とは仕事が行き詰まった際に「今はやるべきことが多すぎて困っているのか? それともなにをすれば良いのかわからなくて止まっているのか?」というタスクに対する現状把握です。

もし答えが「多すぎて混乱している」なら GTD でいうところの Next Action 「次のアクション」を明確にするためにタスクの整理が必要です。「何をすればよいのかわからない」場合は、それこそやる気を注入しても無駄ですのでタスクそのものを明確にするための情報収集や、ブレインストーミングが必要になります。

たったこれだけのことですが、同じ「行き詰まっている」状態でも、車のバックと前進くらい、対処の仕方が違うということに気づくことで次のアクションを明確にしやすくするというよいアドバイスだと思います。

マインドセット4:佐々木正悟さんの「切り離し」

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こうした procrastination についての話題を復習しつつ、佐々木正悟さんの「いつも先送りするあなたがすぐやる人になる50の方法 」を読んでいたら、この本が驚くほど上記の本の哲学によりそいつつ、でも実地でどうすればよいのかのアドバイスを並べているものだということに気づきました。

たとえば「方法01:未来の自分に期待しない」は Now Habit に通じますし、「方法09:大きすぎる夢を描かない」「方法25:感情を介さない」「方法46:最大の損失を先取りする」といった方法も、「やる気」とそれに伴なうプレッシャーで押しつぶされるのではなく、どこか自分を仕事それ自体から感情的に切り離して実行出来るようにする仕組みづくりがという気がします。

この「切り離し」は、何も「冷徹にロボットのように仕事をせよ」というわけではなく、仕事における努力や工夫を「やる気」「自負」「恐怖」「焦り」などといった、感情的な部分と絡み合わせないという意味にとらえるべきだと思ってます。

感情的であるが故に答えが思いのまま出るとは限らない部分を、作業そのものと混ぜてしまうことで先送りが生じてしまう、それを看破されているのだなと思いました。

ここまで挙げた4つのマインドセットに共通するのですが、「先送り」は心理状態でありながら、それを解決するには心の側からタックルしていたのではダメで行動の側から打ち破らないといけないというのがとても面白いですね。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。