成功者の多くがもっている特質「Grit」とは何か?

Grit とは「不屈の精神」「気骨」などと訳される言葉ですが、Clutter と同様、擬音語でもあります。困難を前にして歯ぎしりをしている、あのギシギシという音です。

Boston.com の記事によれば、この Grit が、今心理学者の間で子供の成長と成功を導く一つのバロメーターとして注目されているそうです。

ふつう成功は能力、つまり「知能」や「才能」に依存していると考えられがちですが、知能が高いからといって必ず成功するわけではないことはすでに Malcolm Gladwell の Outliers で説明された通りです

ではどうしてある人は 10000 時間の練習に耐えられるのに、途中で投げ出してしまう人がいるのでしょうか? Malcolm GladWell がいうように環境に左右される部分ももちろんあるでしょう。しかし個人の中に挑戦的な課題を「やり抜く力」があるというのが Grit の考え方です。

ペンシルベニア大学の Angela Duckworth 氏によれば Grit は次のようなものだそうです。

(中略) it’s about setting a specific long-term goal and doing whatever it takes until the goal has been reached. It’s always much easier to give up, but people with grit can keep going.

これは長期的なゴールを決めて、どんな手を使っても、どんなに努力してもそれが実現するまではあきらめないということができる人のこと。諦めるのが楽なときに、Grit を持っている人はやりぬくことができるのです。

これはよく聞く「天才は1%の才能と99%の努力」という話なのかというと、もちろんそうです。でも、その努力を可能にしている背景は何か? というのが今研究者たちが注目しているテーマなのです。

知性よりも Grit

こうした Grit をもっているかもっていないかは、知性とは関係がないというのが面白い点です。たとえば記事で紹介されている例に、過酷な軍隊学校を卒業できるかどうかを客観的なデータで予測できるかを試した例があります。

この研究例では、本人の体力や、知能テストを使っても予測の精度が高くならなかったのに対して、「私は失敗でくじけない性格だ」などといった Grit を調べるアンケート調査を行ったところ、そうした特性をもっている人であるかどうかによって、より正確に軍隊学校を卒業できる可能性を予測することができたそうです。

能力を長期的に一カ所に投入する力

Grit をもっている人にありがちなもう一つの特徴は、「一つのことに集中する」という特質だということが記事では挙げられています。

たとえばピアノを学んでいる子供がいたとして、音楽的才能が同じくらいとした場合に、ピアノだけに集中し、ピアノの演奏に必要な経験と失敗の蓄積だけをためている子供と、チェロやサックスにも手を出している子供では、当然前者の子供の方が成長が速くなります。

こうしたことは大人の世界でも幅広くみられ、私たちが長期的なゴールを作るにあたって意識しなくてはいけないことだと記事では強調されています。Duckworth 氏は自分自身の過去の知り合いの観察を通して次のように感じたそうです:

“Those who were less successful were often just as smart and talented,” Duckworth notes, “but they were constantly changing plans and trying something new. They never stuck with anything long enough to get really good at it.”

成功の度合いが低い人も同じくらい頭が良かったり、才能がありました。でも彼らは常に計画を変更したり、新しいことに手を出していて、何か一つのことに卓越できるほどに時間をかけていなかったのです。

Grit を引き出すことは可能か?

ここまでの話は Malcolm Gladwell 氏の Outliers で見たのとほとんと同じですが、Grit を研究している人たちはこれを子供から引き出すような教育方法はないかということに注目しています。

ここで面白いのが、単に子供の「頭のよさ」をほめた場合はかえって大きな壁を前にして諦めがちになってしまい、逆に「よく頑張った」という具合に「取り組み方」にポジティブな強制を加えると、難しいタスクに対しても歯を食いしばって取り組む姿勢を引き出せるという研究結果です。

記事の中では、スタンフォード大学の心理学者 Carol S. Dweck 氏による子供の研究が紹介されています。

Dweck 氏によると、子供から Grit を引き出すには「現在持っている能力」ではなく**「これから獲得する能力」への確信を引き出すのがポイント**なのだそうです。「君は成長できる」というマインドセットを与え続ければ、それまでの IQ テストの結果を裏切るような成績を引き出せます。ちょっと長いですが、大事な点なので引用しておきます。

The children were randomly assigned to two groups, both of which took an age-appropriate version of the IQ test. After taking the test, one group was praised for their intelligence - “You must be smart at this,” the researcher said - while the other group was praised for their effort and told they “must have worked really hard.”

子供たちをランダムに二つのグループにわけて年齢にあわせた IQ テストを与えます。そして片方のグループに対しては結果に対して「君たちはずいぶん頭がいいんだね」という褒め言葉を与えるのに対して、もう片方のグループには「よくがんばった」と褒めてあげます。

Dweck then gave the same fifth-graders another test. This test was designed to be extremely difficult - it was an intelligence test for eighth-graders - but Dweck wanted to see how they would respond to the challenge. The students who were initially praised for their effort worked hard at figuring out the puzzles. Kids praised for their smarts, on the other hand, quickly became discouraged.

次に同じ子供たちに、今度は非常に難易度の高い、年齢に対して不相応に難しいテストを与え、その反応をみてみます。「努力」を褒められた子供たちは問題を解くために努力を続けたのに対して、「頭の良さ」を褒められた子供たちはすぐにやる気を失ってしまった。

「考え方」は「能力」を引き出す OS

ここまでくると、「なーんだ、ようするに考え方を変えないといけないという、いつものかけ声的な話か」というさめた意見もでてくると思いますが、私はもうちょっと深い秘密があるのではないかと思っています。

「やる気」は当然脳と心理から生まれるのですが、それが「君はもっとできるよ!」「大丈夫だ、まだ成長できるよ!」といったポジティブな強制力に対して必ずポジティブに応答するという特性をもっているということを知っているだけでも、自分を変えるためのヒントになるのではないかと思います。

これを単なる「気持ちのいいやる気トーク」と考えるのではなく、私たちの心理という OS がそういうチューニングを要求するものだと理解して利用すれば、大人になった私たちでも Grit は意識的に生み出せるのだと私は思います。この「考え方」と「心理的応答」の関係は今後も研究が続けられることでしょう。

ええ、これを信じるには勇気が必要です。ええ、信じたところで成功が保証されるわけでもありません。でもまずだれよりも自分が自分の成長を信じる以外に、どこから始めればいいのでしょう。

このブログのテーマが「自分を変える小さな習慣」なのも、言うなればこの「考え方」のパッチをみなさんに提供してインストールしてもらいたいといつも考えているからです。

「あなたは成長できる」「よりよい方法がきっとある」「今はできないことでも、明日はわからない」

動作保証はありませんが、Grit を引き出すためにも、ぜひ今すぐインストールしてください!

The truth about grit | Boston.com

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。