「わたしはこのようにして電子メールの魔の手から逃れた」

chat.jpg I Freed Myself From E-Mail’s Grip | The New York Times

IBM の Luis Suarez さんの仕事はだれもがやっているようなことです。社内のさまざまなプロジェクトについて同僚らと相談したり、質問に答えて、調整を行なってというような内容です。問題は、彼はスペイン沖のカナリア諸島に住んでいて、ニューヨークの社員と、オランダの社員と時差を越えてやりとりをしなければいけないという点です。

時差があるということは、大西洋のどちらの側にいる人と連絡をとるにしても、時間は非常に限られていて、効率的にコミュニケーションをはからなければいけないということです。しかしそれを電子メールに頼っているのでは、メールがさらにメールを呼び、そのサイクルは管理しきれないようになってきていました。

そこで彼はメールにかわる別の手段でコミュニケーションをとるようにして、結果的に 80% のメールを削減することに成功したという話題が NY Times で紹介されています。記事自体が非常に面白く書けていますので詳細は元記事を読んでいただくとして、ここでは彼が用いた「別の手段」についてまとめてみました。

戦略的にメールを置き換える

彼が行なったのは、メールといっしょに他人とのコミュニケーションを拒否するという選択ではなく、必要に応じて複数の手段をもちいるというものでした。たとえばデフォルトの連絡手段を IM としてもらうようにして、3分以上チャットが続くようなら電話に移行するというような手続きになります。

  • IM:まずやっているのは、ちょっとした質問などはデフォルトで IM に送ってもらうように周囲の人を説得することのようです。というのも IM だったらお互いの時間拘束がほとんど等しいですし、文章にする必要がない分だけ高速にコミュニケーションできるからです。

  • 電話:チャットが3分以上続くようだったら、それは多少複雑な話題ですので IM から電話、あるいは音声チャットに移行しています。音声の方が短時間に多くの情報を乗せられる上に、声の調子で相手に真意を伝えやすくなるからです。しかし注目なのは、電話がコミュニケーションの入り口ではないことです。

  • SNS:ある程度の人と共有されるべき情報などはメーリングリストよりも社内 SNS を利用して掲示板に投稿して必要に応じてコメントをもらうようにしたそうです。SNSに対する変更は RSS で受信していますので、全員のコメントなどをいちいち読みにいくのではなく、変更があったときに情報が自分の方にプッシュされるようにしました。

  • Wiki:SNS と似ていますが、もっと構造的な文章やプロジェクトのときには Wiki を利用して情報を全員に周知してゆくそうです。ここでも、最後の編集を RSS で購読することで、変更、更新情報がプッシュされるようにしています。

メーリングリストのかわりに SNS とWiki を使っているのは、なかなか秀逸です。たとえばある人から IM 経由で質問があり、その答えがチーム全体に有用なものと分かった場合は、「わかった、その件は SNS に返事してみんなに見れるようにしておくよ」と返事し、情報を SNS に投稿します。

そうすることで、コミュニケーションは1対1ではなく、とたんに「同じ疑問で悩んでた」という人とのあいだで共有されるものに変化するのです。この点、メーリングリストよりも SNS の方が機動力が高いですね。

さまざまなツールを使って、メールを入れ替えてはいますが、電子メールもまったく使われないわけではなく、秘密の情報交換などの特定の目的に使われます。

コツとなるのは**「デフォルトの通信手段が電子メール」という状態にメスをいれ**て、「じゃあ、この件は掲示板に会話を移すね」「じゃあ、この添付ファイルはみんなが使うかもしれないから SNS に貼っておくよ」という具合に、必要に応じたツールを最も能率が高い形で使うということのようです。

「IM > 電話 > メール」というルールは、もうちょっと IM が職場で浸透してきたら、ぜひやってみたいですね。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。