The 4-Hour Workweek: 週4時間しか働かない仕事術 (4)

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ライフハックが仕事を効率的にするためのボトルネックの解消を目標にしているなら、Tim Ferris の考え方は自分の夢の実現のために不要な活動や仕事自体を段階的に抹殺する思考方法だといえます。二つは奇妙にねじれの関係にありますが、一点だけでつながっている気がします。それは自分という限られたリソースを最大限に活かそうという考え方です。

The 4-Hour Workweek の後半では、夢の実現にむけた実質的な時間の解放と、追加の収入をいかにして得るのかが詳細に書かれています。万人向けとはいえませんし、多くはそのまま日本で応用できるかは定かではありませんが、世界は想像以上にフラット化しています ので、不可能なことではないはずです。

後半部分で一番衝撃的だった章が、「人生をアウトソーシングする」の章です。

インド人を使う

VA というと、日本の Google で検索すると VA Linux くらいしかでませんが、この単語は今後数年で定着するかもしれません。VA は Virtual Assistant のことで、日常の小さな仕事を代理で行ってくれるサービスのことです。

本で紹介されているのは Brickworks や Your man in India のようなインドのサービスで、もともとはアメリカで働いているインドの方が、故郷の家族のためにちょっとした小間使いなどをお願いしたりするものでしたが、それが広がってリモートで出来る仕事をなんでも引き受けてくれるようになったのだそうです。

ウェブで調べ物をしなければいけない。ちょっと Word / Excel を清書しないといけない。出張の予約をしないといけない。面倒くさい英文メールを書かないといけない。ブログのためのリサーチをやってほしい。知り合いの人のための贈り物をみつくろってもらう。こうした仕事は自分でやってもできますが、やり方は誰がやってもたいてい同じですし、スキルのレベルに関わらず、かかる時間はたいてい同じです。

こうした雑事を、時差も違い、通貨も違うインドのサービスに個人的に外注してしまうというのが「人生のアウトソーシングです

お金がかかりすぎて損ではないかと最初は思いますが、ここでもちゃんと計算をすると面白いことがわかります。年間 5 万ドル (600万円)くらいを稼いでいる人は、8時間労働だと1時間あたりの価値が 25 ドルになります。それに対して外部にこうした雑用を外注するのは通貨が違うせいもあって、1時間あたり 4-10 ドル程度となり、解放された時間をさらに重要なタスクに充てられると考えれば、やり方次第で収支は相殺するのだと著者は主張しています。

本の方にはブログの更新などを含めた作業を外部に任せる場合の注意点、個人情報についてなどのアドバイスが書かれています。また、ここでは時差と言語も意味をもってきます。アメリカとインドの時差を考えると、夜に仕事を外注すれば、バンガロールの VA がインターネットで調べ物をしてくれたり、Word の清書をしてくれて朝には仕上がっているという計算になりますし、インドでは英語が準公用語ですので、言語のバリアーも比較的低いわけです。

企業が使うジオアービタージという考え方を個人でやってしまえ、というなんとも大胆な考え方です。

これでいいのか?

この章を読んで最初に感じたのは、いくらお金をはらっているとはいえ、自分が寝ている間にインドの方をこき使っているのはどうにも気分が悪いというものでした。通貨が違うだけで、その仕事にかかる時間と手間は自分と同じものなのですから、なんだか後ろめたいような気がします。

しかしよく考えてみると、個人的にやっていないだけで、日本にすむ私たちは毎日これを隠れた形でやっているのだということに思い当たります。身の回りにある全てのものがインドや中国、ベトナムなどで安価で作られているおかげで私たちの生活は成り立っています。インドを持ち出さなくとも、全てのものは私たちのかわりに何かをしてくれている人のおかげで成り立っています

先日紹介したスティーブ・ジョブスの言葉を思い出します。

知ってると思いますが、私たちは自分たちの食べる食べ物のほとんどを作ってはいません。私たちは他人の作った服を着て、他人のつくった言葉をしゃべり、他人が創造した数学を使っています。何が言いたいかというと、私たちは常に何かを受け取っているということです。そしてその人間の経験と知識の泉に何かをお返しができるようなものを作るのは、すばらしい気分です。 この気持ちを心に持っている限り、そして自分が相対する VA の人を親切に公平に扱う限り、これはこれでありなのかもしれない。そんなことを思いました。

(日本からこれらのサービスを使えるかは未確認です。当然言葉のバリアーはあるでしょうし、使っているソフトなども違うので Tim と同じようにはできないでしょう。でもこの発想はまねることができそうです)

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。