What is LifeHack ? (for me, at least)

[ には非常に役に立つハックもたくさんありますが、どちらかというと仕事術のようでいて、実は時間の無駄遣いにしかなっていないようなものも多く書き込んであります。

やれ、少ない水でシャワーを浴びる方法や、外出先でライターをなくさない方法などがそれです。悪口のつもりではありませんし、もちろんこうしたテクニックにも便利な瞬間はあるのでしょうけれども、どうでしょう、これってハックなのでしょうか?

簡単・合理的というキーワード

ハックの英語としての意味は「たたき切ること」、で、イメージとしては鋭い鎌で手際よく草を刈ってゆくような感じです。ハックはコンピュータ技術者たちの間では意味が転じて、難しい問題に取り組んで、エレガントなあるいは思いもよらない解決方法を見いだすことを指すようになりました(もちろん、コンピュータに侵入することも含まれるようになりましたが…)。LifeHack のハックもここから来ていますが、アメリカのブロガーたちの間で話題になった頃は、非常に作業の能率の高いプログラマが、高等なテクニックではなく、恥ずかしいほどに簡単な「ハック」を使って日々の仕事を楽にこなしているという意外性が意味に加わりました

Hipster PDA のように、紙束をデジタル機器にまさる機動力をもった PDA にしてしまうテクニックの根柢には、「ローテクでよいものについてはローテクを使う」という発想の転換がありますが、これもアナログであることを引け目に感じず、むしろ実効性を採用したハックといっていいでしょう。

ここには、「簡単かつ合理的」というキーワードが隠れていると思います。Sony の Clie を使っていたこともありますが、Clie を使いこなして維持するための苦労の方が多くて、なかなか簡単というわけにはいきませんでした。また、書き物をするのに Graffiti を操るのは一見かっこ良いのですが、ある程度の分量以上は手で書いてから推敲しつつ入力する方がよっぽど早いという不合理さもありました。今もこの原稿は Hipster PDA と原稿用紙で下書きしたものを出張中に新幹線の中で推敲しつつ入力しています。

人生のボトルネックの解消

もう一つのキーワードに、「ボトルネックの解消」があると僕は考えています。ボトルネックには、時間、労力と、ストレスの大きく分けて三つがあるかと思います(他にもあるかも)。よい LifeHack は、簡単かつ合理的な方法で、これらのボトルネックを解消してくれている気がします。

たとえば僕はたいへん気が散りやすいので、「いまやっているアクションを目の前の情報カードに書き込む」というハックをいつも行っています。自分の時間のつかいかたを反省しているうちに、自分がすぐに関係のないことをやり始めて時間を浪費し、自己嫌悪に陥っているケースが多いということに気づいたことから始めた習慣です。例として、ウェブで調べものをするときには「○○について調べる」と目の前のカードに大書してから、Google に向かいます。調べものをしている間は、この目の前のカードを数秒ごとに見やることによって、いま調べていることから頭が離れ始めたら強制的に自分を引き戻すようにしています。そして調べものが見つかったら、カードを二つに破って「はい次」と声に出して意識的に時間と作業と意識とを分断します。

このハックは人によっては「それはメモをとってるだけでしょう。LifeHackじゃないよそんなの」、という人もいるかもしれません。しかし、ブラウザで調べものをすることの多い自分にとって、このハックは時間の無駄遣いの 80% を解消することのできる立派な LifeHack となっています。集中力が極端に弱い僕には、このボトルネックを解消しないことには便利なツールを使って倍の早さで仕事ができたとしても、全体の能率は決して上がらないのです。

LifeHack とは何か

こうして考えをすすめると、自分にとって「LifeHack とは何か」という疑問への答えが見えてきます。それは「簡単、かつ合理的な方法で、人生のさまざまなボトルネックを解消するテクニック」ということになりそうです。

プログラミング用語でいうとこういう作業は「プロファイリング」といって、どのルーチンが一番時間を喰っているのかを unix でいうなら prof コマンドで調べ、そのルーチンのパフォーマンスを徹底的に改善することで一部の変更で全体を底上げできるという手法に似ていなくもありません。ただこの場合のパフォーマンスは人間相手ですので、時間の節約と能率の向上になっても、ストレスが大きいハックなどは願い下げであるように、バランスが求められます。

というわけで、たとえ他の人にはつまらないことに見えても、その人にとってシャワーの水の無駄遣いが非常に気になってストレスだというなら、それを軽減することは立派な LifeHack になるというのもありなのかもしれません。あまり一般的ではない気がするので、このブログではなるべくそういう類いは紹介しないつもりですが。

ハックを毎日の習慣のなかに取り入れる前に、それが簡単で合理的かどうか、また、どんなボトルネックを解消してくれるのかと問いかけてみると良いのかもしれません。また、日常の習慣がより能率的になるようにチューニングをするときにも、おなじ理屈が通用するはずです。

追記

と、偉そうな文章を作り上げて満足して「公開」ボタンをクリックしてから数時間経ってから、なんだか良心のささやく声が聞こえてきました。「そんなこと言って、自分だってやってるじゃないか。 ハックのためのハックを。ほら、君が心の中で自慢にしてるあれだよ…」という声です。

そう。実際のところ、自分で思うほど上の理屈をちゃんと適用できているわけではなく、多くの場合は「楽しいから」とかひどい場合は「ハックしてる自分に酔えるから」という理由でやってることもたくさんあります(笑)。たとえば:

  • セロテープを使ったら端っこを折り曲げて次のときにつまみやすくする。(昔からオフィスでCourtesy Tabの名で知られている工夫です)

  • 人差し指と親指を広げた長さ、両手を広げた長さ、一歩の長さを覚えておいてとっさのときに使う。

  • USB メモリをキーホルダーにする。鍵は手放さないので、出先などで「そのファイルちょっとちょうだい」というときに便利ですし、自分の論文と Keynote/PowerPoint ファイルを全ていれておくことで、いつでも誰にでも自己 PR ができる。ああ恥知らず。

  • 一番恥ずかしいのはこれかもしれない。トイレに座るときにトイレットペーパーを先に少量いれておくことで(以下省略)。(よかった。ここでも紹介されていた)

前言撤回。ときには、こうしたくだらないハックも面白いですね。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。