Books: 「リーダーシップの旅」

[photo-directions.jpg LifeHacking.jp では普段の仕事を手っ取り早く解決するハックをとりあげてゆくことと同時に、もうちょっと長い視点で考え、まさに「人生」をハックしてゆくという視点も取り上げていくつもりです。

「人生」というと大時代に聞こえますが、別に人生論を語るというよりは、「自分の視点」「自分の行動」を定期的に戦略的に見直すことで、より長い時間スケールで効果がでる習慣を模索することもライフハックだろうと考えて、いくつかの試みを行っているところです。

今日紹介するのは、リーダーシップを旅に例えて、自分のビジョンを追求してゆくライフスタイルについて書いた好書、「リーダーシップの旅 見えないものを見る」(著:野田智義、金井嘉宏、発行:光文社新書)です。

リーダーシップは旅

本書は「リーダーになろうとしてなった人はいない」という衝撃的な序章から始まるリーダーシップ論で、経営学の研究を行ってる二人の著者による、緻密ですがわかりやすい論理の運びをもった本です。

すでに社会で「リーダー」と呼ばれがちな社長さんや組織の長上の方にむけて「良いリーダーになる方法」を教えるためのものではなく、むしろ今から何かを実現しようとしている無名の人に「リーダーになれ」「変革を引き受けろ」と力強く呼びかけます。

著者らのリーダーシップ論の特徴はリーダーがもっている要素を分解してゆくのではなく、リーダーが生まれるプロセスに着目している点です。「すごい人」がリーダーになるのではなく、「すごいことを考えた・した人」がリーダーとなってゆく過程を、旅になぞらえて追っています。

リーダーシップは、まだ現実になっていないビジョン、本書でいう「見えないものを」を見通す能力であり、そうしたビジョンを実現するために、まず自分で自分自身のリーダーとなること(リード・ザ・セルフ)から旅が始まります。そしてそのビジョンが周囲の人に共鳴し(リード・ザ・ピープル)、やがては社会全体に広がってゆく(リード・ザ・ソサイエティ)過程を旅、偉業、生還というプロセスから概説してゆきます。また、リーダーシップ対マネージメントの構造や、リーダーシップを阻むものについても詳しい実例とともにプロセスが解説されており、読むものに覚悟を迫ると同時に、誰でもこうした衝動を感じる瞬間はあるはずだ、とエールを送っている気もします。

本の大まかな議論の進行は野田氏によって書かれ、間に差し挟まれる形で金井氏の補足や論理の反芻が行われています。そのため、わかりづらい概念が登場した場合に同じ話を別の視点から二度読むことで理解がすすみやすくなるのですが、一方で、わかりやすい話が書かれているときほど、野田さんと金井さんの文章が交代で登場するために、野田さんによって敷かれた議論の筋道が断ち切られ気味となってしまい、若干読み手としては負担に感じた面もありました。そういうときには、各章の冒頭にその章で扱われる内容を導くための問いが用意されていて、最後の部分には総括が書かれているのが、読者として非常に便利でした。

リーダーシップが一人の人間の心の中でいたって個人的な「自分との約束」として芽生えて、やがて周囲をまきこんで成長してゆく過程はコヴィー氏の提唱する「7つの習慣」の発達プロセスとも合致していて興味深いものを覚えました。たとえばスティーブン・コヴィー氏が「The 8th Habit」の中でリーダーシップを「主体的な選択」だとしていることなどと、この本の議論は基本的に一致していると思います。

この本はリーダーシップを成功させるための本でもなければ、リーダーのための行動指針を与えてくれる訳でもありません。しかし、なにか大きな夢を描いている人に向けて「それでいいんだ」「こういう落とし穴に気をつけろ」というリーダーシップの精神をわかりやすく教えてくれるものです。役職についたリーダーよりも、いまから自分はどのような未来を描こうかと考えている若者にすすめたい一冊です。

[leadership-journey.jpg 野田 智義 (著), 金井 壽宏 (著)

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。