Evernote 8周年を迎えてのCEOクリス・オニールのビジョン
今週は、Evernoteが生まれて8年目となります。そして、Evernoteが日本語化されてから6年ちょっとがたちました。
それを記念して、東京で CEO クリス・オニールを迎えてのユーザー・ミートアップが開催されるとともに、あらたに創設された Evernote コミュニティ・リーダーと呼ばれるエバンジェリストたちがクリスと会って話す機会がありました。
さまざまなことが話題にあがったのですが、問題なさそうな部分だけにしぼって、最近停滞気味のEvernoteの未来のビジョンについて聞き出せた点を紹介したいと思います。
Evernote哲学は生きている
Evernoteの哲学はいまも生きているのか? ユーザーを代表してまず聞かないといけないと思ったのはこの点です。
カリスマ的でアイデアにあふれたCEOだったフィル・リービン氏にかわって着任したクリス・オニール氏が、当初からの Evernote の哲学を継承しているかどうかは気になる点です。中長期的に、クリスは Evernote をどこに導こうとしているのでしょうか。
この質問に対して、クリスは自分が考える Evernote の根幹の思想を3つの点にまとめました。一つは**「記憶すること」**です。ユーザーの情報を記憶し、決して忘れないようにすること。これが大前提にあって、Evernoteの最初のモットーである “Remember Everything” はどこにもいかないと彼は明言しました。
[mks_pullquote align=“right” width=“200” size=“24” bg_color="#ffffff" txt_color="#38b56a"]記憶、思考、情報の整理。これがEvernoteの根幹にある[/mks_pullquote]
二つ目は、**「考える」**場所であること。情報を記録するだけでなく、考えをまとめるためのツールであるべきという点です。これは Word のように文字が清書できる、Excelのように表を扱えるといった機能的な話よりは若干抽象的で、そうした機能に裏打ちされる形で、高度な思考を現実化できる場所であるべきという点です。
三つ目は、情報の整理。それは複数のひとの間でシェアすることでも、個人の情報の整理でもいいのですが、保存した情報と思考とを統合して整理できる場所であるべきだという考え方です。
クリスのこの説明は、これまでのEvernoteのあり方を踏襲したものでありながら、もっとシンプルで、機能やユーザー・エクスペリエンスに落としこむことができる明瞭さをもっているように感じました。
Evernoteの哲学はちゃんと、新しい CEO に継承されていたのです。
その未来に向けてどのような道筋をとるか?
ここで、ブログみたいもん!のいしたにまさきさんが質問して、「過去のアーカイブである膨大なノートと、いまから作ろうとしている仕事との間にツールとしてギャップがあって、そこを解消できないか?」 という点に話がおよぶと、クリスは自分に向けて確認しているかのように、ぐっと具体的な話を始めました。
それは先程の「記憶」「思考」「整理」を実現するための3つのプロセスについてです。
まず、Evernoteに対して情報を入れる際の摩擦、抵抗を、出来るかぎりなくさないといけないというのがひとつ目のポイントです。写真であれ、テキストであれ、最近はキーボードだけではなく、音声認識やSiriといった情報インターフェースなど、さまざまな方法が注目されていますが、そうしたものを検討しつつ、ユーザーの側からみて考えるのと同じスピードで記録ができる方法を追求してゆく必要がある。ここをクリスは何度も強調しました。
二つ目に、よりさまざまなサービスや、既存のツールと競争するだけでなく、それらを結びつけて仕事につなげるインテグレーションに力を入れなくてはいけないというポイントがあります。これは先日の Google Drive ファイルの添付機能などのように実現しつつあるものもありますし、いま実装中のものもあります。
[mks_pullquote align=“right” width=“200” size=“24” bg_color="#ffffff" txt_color="#38b56a"]Evernoteは蓄積したノートのアーカイブにもとづいて、価値ある情報を整理して提供できる[/mks_pullquote]
三つ目に、思考を生み出す場所として、Evernoteはユーザーの資産であるノートのアーカイブを、生産性を高める形で整理してユーザーに提供する仕組みをもつべきだという点です。意訳すると、ある種の知性のある情報整理といっていいでしょう。コンテキスト機能はよいスタートでしたが、Evernoteはもっとユーザーの情報について深く知り、有用な形で引き寄せて仕事を生み出せるようになるはずだとクリスはいいます。
実際、業界の他の製品やサービスとして、Amazon の Echo や、Apple の Siri、Microsoft の Cortana などのように、ユーザーの様々なインプットに対して適切に情報を処理して提供する技術が近年注目を集めています。しかもこれらのどれもが、Evernoteほどにはユーザーのことを親密に知りません。
Evernoteは膨大なアーカイブを背景に、ユーザーにもっと有益な情報の提供の仕方をできるはずだというのが、クリスが力強く言っていた点です。
2011年に記事にしていた、「Evernote がもっている、Googleをも凌ぐアドバンテージ」という世界観に、ようやく手がかかる感じで興奮します。
8周年記念パーティーも
今回はクリスも出席しての8周年ユーザー・ミートアップも開催され、多くのユーザーが集まってクリスのトークあり、ライトニングトークありの楽しいイベントとなりました。制限時間2分のLTに50枚のスライドで臨んで私は脳が焼ききれそうですが…。
Evernoteの長期ビジョンは、それこそ遠大なものです。これまでのEvernoteの哲学を継承しつつ、けっこう大きな変化を断行しなければいけないことも予想されます。よくよく考えると、EvernoteってiPhoneが出てくる以前の考え方で設計されているのですから、このあたりは仕方がありません。
「長期でみてくれ」というのがクリスが強調していた点です。長期的に Evernoteの哲学はかわりませんし、本家ブログで宣言されているように #Forevernote としてユーザーの役に立ちたいと考えている。そのことを信じてほしいし、ユーザーの信頼に答えられるように我々は努力しよう、というのが、Evernote CEOクリス・オニールからのメッセージでした。