ストレスフリーの仕事術、GTDをアップデートする
David Allen氏が提唱した仕事術、Getting Things Doneについて、もう一度語らないといけないときがやってきました。
2005年頃にライフハックが最初にブームになったころには真新しかったこの手法も、いまではあまりブログなどで話題にならなくなっています。
それはなかばGTDが常識化して、広く受け入れられていることもあるのですが、やはり考え方の一部が時代にあわなくなって古くなってきたというのもあるようです。
GTDがいま抱えている問題点は、そしてそれを乗り越えるための道筋は何か?連載形式で考えていきたいと思います。### GTDの基本と、アップデートの必要性
GTDに基本的な考え方は、「収集」「処理」そして「実行」にあります。なかでも一番有名なのが、「やるべきこと」をすべて書き留めてゆく収集のステップにあります。
「やりたいこと」「すべきこと」を頭にかかえて、全てを記憶しようとしているうちは、記憶力と集中力がタスクの上限になってしまいます。そこでGTDではそれを外部の信頼できるシステムに預けようと提唱します。
これ自体は、いつの時代でも有効な方法ですが、GTDの原書が登場した頃と今ではいくつか、仕事の環境に大きな違いがあります。
1. スマートフォンや、クラウド技術の発展
GTD本が出たのはスマートフォンの登場前夜のことで、オンラインで仕事をすることは想定していても、まさか電車に揺られながらiPhoneでデスクトップのパソコンにいるのと変わらないメールやプレゼンテーションまで作成できたり、歩きながら音声チャットに応じたりできる未来は想定していませんでした。
クラウド技術についてもそうです。Dropboxなどの活用によって、ファイルの置き場所という概念が取り払われ、職場でも、自宅でも、外出先でさえも同じ環境で仕事の続きができるようになりました。
GTDには「コンテキスト」つまり「いま、この場所でできること」でタスクを整理するという概念が登場しますが、このコンテキストが消えてしまったといってもいいのです。
2. ネット経由でやってくる仕事が多様化した
コンテキストが不明確になっただけではなく、「仕事」や「やること」がやってくる方法も多様化しました。GTD本では電話とメールが主な手段として想定されていますが、いまではFacebookメッセンジャー、LINEのチャットといった形で断片的に、しかしリアルタイムでやってくる話もたくさんあります。
集中しようとしていた矢先にポップアップが一つ飛び上がって「いまちょっといい?」と、声をかけられた時に、なかなか断りづらいわけです。
このことは次のポイントにつながっていきます。
3. 仕事における単位時間がさらに短くなった
上記二つの副産物として、さらに仕事における単位時間が短くなったことが挙げられます。メールに対する返事は分から数時間の単位でよくても、チャットで呼びかけられたときには秒速で対応することが望ましいこともあります。
結果的に仕事時間は最も短い単位で分断されてしまい、ゆっくりと数時間かけてなにかのタスクにとりかかるだけの余裕はかなり意識的に生み出さなくてはいけなくなっています。
集中力のマスキングテープ
こうした環境の変化は、当初のGTDのやりかたを原書に書かれている手法そのままに適用することの限界を生み出しています。
原理はなんら変わっていないのですが、適用する側である私たちのほうで対応しなければいけないことが変わってきたのですね。
それは「収集」する場所であったり、「処理」するときの構造であったり(3分ルールはいまでも有効か否か?といった質問)、実行する際の集中力の確保の仕方であったりします。原理はかわらないが、道具を変えないといけない。それは去年出版した梅棹本でも紹介したとおりです。
先日、このブログでもたびたび紹介してきた3M社のカスタマーテクニカルセンターに招かれる機会がありました。
そこでうかがったのは、3M初期のヒット商品であり、いまも会社の代名詞であり続けるマスキングテープが、自動車の塗装をする際に色の境目を美しく仕上げるために導入されたアイデアだったという逸話です。
熟練のワザで塗装を塗り分けることができる職人もいたことでしょう。しかし低粘着のマスキングテープを使うことで、だれでも同じレベルの仕事ができるようになったわけです。
GTDにおいても必要なのは、私たちの集中力のマスキングテープといっていいでしょう。日々の雑用を必要十分にこなしながら、重要な仕事を着実に進めるために有限のリソースであるアテンション = 集中力を管理するマスキングテープです。
次回からは、GTDの基本に立ち返りながらそうした新しい実践方法を模索してゆくことにしましょう。