世界の3Mが「小さいマーケット」を追うのはなぜか? がわかった第2回イベントに参加 #3mjp
先日おこなわれました第1回3Mイベント「意外と知らないテープの歴史」に続きまして第2回のイベントが行われました。
前回はテープ、接着剤といった隠れた場所をつなぎとめる製品が主でしたが、今回のテーマは「着て、かぶって、守る、3M!」です。見た目にわかりやすい製品が次々と登場する反面、やはりわかりにくい部分がある。3M、やはりじわじわと面白い。
その面白さの理由は、iPhone のように世界中に展開される製品で世界を変えるのではなくて、「小さな発明」で変えてゆく社風にあります。「世界を変える方法」のヒント、気になりますよね?### 再帰性反射材と防護服
今回のイベント会場は前回と同じ、3M品川本社だったのですが、今度は会場の一角がなにやらカーテンで仕切られていて、部屋の中央が通れるように空けてあります。まるでファッションショーの会場のような?
と思っていると登場したのがこちら、スコッチライト反射材製品のベストをきた方が登場。照明も落ちて、「手元のライトで照らしてください」といわれるので照らしてみると、写真の通り、ベストの部分が反射で輝きます。
あたりまえのようですが、よくよく考えると、ライトをあてたときに光が周囲に散乱せずにこちらに直接返ってくるというのは不思議です。これは「再帰性反射」といって、光を当てた方向に対してまっすぐ逆に光を戻す性質をもった素材なのです。
散乱しないというところがポイントで、光が散らばるとそれだけ暗くなりますし、関係のない方角でも光が見えてしまいます。そこで入ってきた光を正確に180度反転させて返す必要があるわけです。
そんな解説をしていただいたのですが、実はかなり難しいことをいかにもさらりと言ってのけています。こうした再帰性反射を生み出す仕組みとしては、反射板の上にミクロに敷き詰めたビーズを用いる方法と、ミクロなプリズムを用いる方法があるのですが、当たり前のような反射材に高度な技術を織り込んでいるのが3Mのすごいところです。
こちらは防護服。不織布でつくられていて、簡素な作りにみえますがさまざまな隙間がきれいに閉じるようになっていて、たとえば清掃や塗装をしているときに直接触れることがないように身を守ることができます。
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意外なことに、こちらは Amazon で購入することができます。しかも安い。
参加者みんなで着てみましたが、顔の周りにゴムで吸い付く感じ、袖の部分も密着しているところが普通の衣類と違います。
防護服は着方も重要ですが、脱ぐときも付着している有害物質などに触れないように脱ぐのが重要だとのことで、むしろ脱ぎ方のほうが詳しく解説されているのが興味深かったです。
次に紹介されたのが強烈な光から目を守る「スピードグラス自動遮光面」です。たとえばアーク溶接は可視光でも強い光だというのは見たとおりですが、同時に強い紫外線を発生させますので直接見続けると電光性眼炎という炎症を引き起こします。
そこで溶接マスクをつけるのが必須なわけですが、このマスク、光は遮蔽しますが溶接したい部分が暗くなってよく見えません。そこでマスクをぬいだりつけたりを繰り返すこととなって、面倒になって直接溶接光を見るようになると目を痛めてしまうということも現場で起こります。
そこで開発されたこのスピードグラスは、溶接の光がないときは半透明のスクリーンになっていて手元がみえますが、アーク光が発生した瞬間に液晶が暗くなって光を遮蔽してくれます。
実際に試してみると、これが本当にすばやく切り替わり、強い光が目に入ることがありません。そしてこれを現場でいちいち溶接するたびに跳ねあげたり、ぬいだりする手間を考えると、これは見事な発明です。
そしてつなぎ。いいですよねつなぎ。
今度は「目に見える」3M
前回のイベントでは、普段目にすることがない、社会を裏でつなぎあわせている接着材やテープといった側面から 3M をみました。逆に今回は最終製品である防護服やスピードグラスの紹介を通して目に見える場所で活躍している 3M の製品について学ぶことができました。
ここで疑問に思ったのは、これだけの技術があっても 3M はたとえばモーターバイクのヘルメットのような、桁違いに利用者が多いマーケットを追うのではなく、あえて溶接の現場といった小さなスケールのソリューションを提供しているという点です。これは意図的なことなのでしょうか?
この質問をしてみると、実際にこれは意図的なことのようです。市場規模としては20億円程度の、中小企業からみると大きいのですが 3M ほどの企業体からみると小さなスケールの市場において占有できる製品を目指す傾向がたしかにあるのだとか。
と同時に、溶接の現場における課題といったように、現場での問題を探してきて解決するという手法は大企業らしくないきめ細かさで、リチャード・ドリューがマスキングテープを発明したときのスピリットが生きているわけですね。
いしたにさん(@masakiishitani)から3Mの話をうかがったときにとても興味をもった3つの疑問の答えがこれでみえてきた感触がします。
これほどの複合企業体がなぜテープや接着剤のような裏方のような製品を作っているのか? なぜ市場規模の小さい分野をあえて選ぶのか? 最後の疑問は、3M のような会社は社会のインフラをどう考えていて、どのような未来を見ているのか? です。
たとえば発電用のケーブルといったものは、たとえ数%であっても重さと送電効率が改善すれば送電鉄塔の数や形が変わり、発電所の数が変わり、ひいては社会全体の形にまで波及します。道路やダムといった巨大構造物を作る会社もそうですが、こうした「世界を作るピース」を作っている会社もまた、小さな発明で世界を変えるのです。
もちろん 3M は膨大な特許と、世界中に支社と研究所をもつ巨大企業です。しかしその一方で、最も小さいもの、小さいマーケットが世界を変えてゆくということも理解しているようで、自身の特許の適用方法を注意深く選んでいる側面があります。
この点は、小さな力しかもたない個人、小さな組織でも参考になりますね。自分のスケールにおいて最もリーチのある製品やコンテンツを考えてみるヒントになりそうです。
第3回のイベントも計画されているみたいですので、このあたりの秘密をもっと深く聞ければと思います。
(その他)
イベントのおみやげに、いくつかの 3M 家庭用品をいただきました。バス用、台所用のスポンジなのですが、窪みがあったり、鳥の形をしていたりと個性的です。
これらの形も、大きなものから小さい隙間まで洗いやすいように作られていたり、水切りがよかったりと、工夫があるそうです。
特に右の「カーソル」のような形をしたバススポンジは我が家でも使っていますが、立てておくだけてすぐに水が切れて乾いているのは面白いくらいです。
こういう家庭製品の開発秘話について聞いてみるのも良さそうですね。