「たった一度の人生を記録しなさい」(五藤隆介著、ダイヤモンド社)

Lifelog book

ライフログというと、また新たになにか努力して実践しなければいけないスキルのように聞こえます。しかし海岸を歩いたときにうしろに足跡が残るように、ふだんの行動がそのまま何かの痕跡を残していて、それをあとから俯瞰できるとしたらどうでしょう?

まだiPhoneのようなデバイスとEvernoteのようなクラウドサービスの利便性はそこまで達してはいませんが、「半自動」の領域であれば相当の情報を集めることが可能になってきました。

五藤隆介さんの「たった一度の人生を記録しなさい 」は現時点でそうした「自分のカケラ集め」についてかかれた最も実践的な本といってよいでしょう。

著者から献本をいただきましたので、内容に触れつつ半自動ライフログの話題について書いておこうと思います。

たった一度の人生をEvernoteでライフログ

Nicholas Feltron さんのライフログのように、膨大な情報を蓄積して可視化するのはそれ自体がなんだかかっこいいので実践してみたくなります。

しかし実際的には、記録することでメリットがあるものは割合限られています。たとえばダイエットを心がけている人にとってのカロリーのログ、読書を心がけている人にとっての読書メモ、家計簿をつけている人にとってのレシート・ログ。

これまでだと、こうした記録は「レシートをすべて保存しましょう」「読書ノートをつけましょう」といった個別の取り扱いが多かったと思いますが、五藤さんの本はこの、すべての「記録したい」という欲求を Evernote という出口に向かってつなぐ仕組みについて語っています。

たとえばレシートをEvernoteに撮影し続けることだけで成立する「レシート家計簿」や、店でEvernoteノートを作ることで半自動的に作る「店のログ」といったように、Evernoteを利用したログの蓄積方法が網羅されているのは、「Evernoteで何を記録しようか」と想像を広げたいと思っていた人に最適でしょう。こうした実践的な例がこの本にはふんだんにあります。

  • 持ち物をすべて記録する「デジタル自分目録」

  • 顔写真も出会った場所も書き込まれた「デジタル名刺入れ」

  • ツイッターのやりとりをすべて記録する「ソーシャルライフログ」

こうしたキーワードにびびっときた方はぜひ本書を手に取ってみてみてください。Evernoteの新しい使い方とともに、記録がもたらすメリットにも目が開かされると思います。

1人称のログと3人称のログ

しかし本書にも足りない部分がないわけではありません。それは、いままさに開拓されつつある場所なのであまり触れられていなくて当然な、「自動記録」と「手動記録」のそれぞれのメリットと意味合いです。

本書では「ライフログの基本は『手動記録』(p.117)」という立場から、自分自身の発見を、自分の目を通して記録することの重要性について強調しています。つまりは自分というフィルターを通してみた情報のキュレーションですね。

私もモレスキンやEvernoteにこうした「主観的な文脈」を加えていますが、これは**「1人称のログ」**ともいうべきものです。私を通して、私の主観の烙印が押されていて、それだからこそ価値がうまれるものです。

しかしログにはもう一種類あります。それこそ、そもそもライフログという分野を切り開いた “Total Recall ” の Gordon Bell のMyLifeBitsが目指したある個人の情報の自動取得と解析です。これを便宜上「3人称のログ」と呼びましょう。

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1人称のログには「どうしてこの写真をとったか?」「どうしてこの本を3回読み返した?」といった、あなたにしか答えられない情報が蓄積します。それは感情的であったり、あなたの個性、価値観に近いログですので、蓄積することでみえてくるのはあなた自身の真の姿です。

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一方、3人称のログは本人の介入なしに自動的に取得されるもので、偶然や、「なぜかこれを選んでしまう」といった無意識に近い部分、そして他のひととのやりとりから明るみに出るあなたの性格などを浮き彫りにします。

ちょっとかっこつけるなら、前者の役割が「自分の発見」、後者は「世界の発見」といってもいいでしょう。Evernoteで自分がたどった足跡が偶然、数年前の別の出来事と重なっていたことに気づいたりするとき、私はちょっとだけ深く自分の場所を知ることができるからです。

五藤さんの本ではこの、1人称と3人称のログは使い分けられていないために、自動で記録する部分と手動の部分のメリットが交錯する傾向にあります。

しかしそれはこの古くて新しい分野にまだまだ未開拓の領域があるということでもあります。

何を記録しようか? と考えるときに、ぜひこの点を考えてみてください。あなたの Evernote やモレスキンの重みが、ちょっとだけ増すことでしょう。

p.s.

このあたり、もうちょっと明快に10月7日のイベントでもご紹介する予定です!

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。