象の背中についた二枚の翼。Evernote Trunk Conferenceで記憶のプラットホームの未来をみた

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これまでは Evernote は記憶をためこむだけの場所でした。これから、それは解放されます。しかも今まで人間の脳には不可能だった方法で。

ちょっと警鐘を鳴らすエントリを書いてから向かったサンフランシスコで、8/17 に開催された Evernote Trunk Conference に参加してきました。

短く書くと、最近感じるようになっていた Evernote への不安は、意外な形で解決にむけた取り組みがされているのだと納得できました。ETC の詳細は別記事にして、まずは今回のカンファレンスの意義と感じた点をまとめたいと思います。### Evernote CEO、Philの基調講演

いつになく緊張していたものの、講演が進むにつれてリラックスして、言葉に熱がこもってきた Phil の基調講演は、新しい発表で目白押しでした。しかしなんといっても驚いたのは2点、Skitch.com の買収と、Evernote ギャラリーの発表です。

Skitch は私もファンでしたのでこのニュースはとても嬉しかったのですが、注目すべきなのは Skitch が単なるスクリーンショット編集ツールではなく、写真共有サイトであるという点です。

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たとえば私の Skitch のページを見てもらうとわかると思いますが、パブリックに共有された画像のストリームがブログのようにつらなり、コメントをすることも、私をフォローすることもできるようになっています。Skitch はスクリーンショットのまわりに作られたソーシャルなプラットホームなのです。

この買収を通してEvernoteはソーシャルな共有サイトとしてのノウハウを取り込み、SkitchはEvernoteのユーザーベースを得るわけですね。

Evernote ギャラリー(仮)の目指すもの

Phil が発表した、今年の年末にかけて利用可能になる機能が「Evernoteギャラリー」です(このネーミングに関しては中の人も「ひでえ名前だ…なんとかならないかなあ」とおっしゃっていました(笑))。

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Evernoteギャラリーは、1) ユーザーにクライアントの見え方をカスタマイズする力を与えるのと、2) サードパーティーがEvernoteクライアントに対してプラグインを書けるようにする、という試みです。これを指して内部の人は、「Evernote Trunk を発表しただろう? Evernote ギャラリーの登場で、今度はTrunk自体がEvernoteになるんだ」と表現していました。

画像には地図アプリや、写真の一覧表示のアプリがみえますが、このようにEvernoteのデータベース上にデータを効率的に収集したり、加工してプレゼンテーションしてくれる小さなアプリが組み込まれると考えてください。

これでEvernoteクライアントはますます重くならないのか? と聞いたところ、むしろ逆で、これまでEvernoteクライアントがなんでもこなそうと努力して重くなっていたのを、Evernoteギャラリーに任せられる分だけ軽くなると技術者は自信をもっていました。

データを解放する片方の翼、それがEvernoteギャラリーです。

デベロッパー・コンペティションでみえたもの

会議のおおきな部分はデベロッパー・コンペティションのファイナリストの紹介にあてられていました。

ここでも特徴的だったのは、Evernoteのデータそのものをもっと利用しやすくする、Evernoteとユーザーの間に入るアプリが最も熱い視線をあびていたという点です。

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たとえばコンペティションの優勝作となった Touchanoteがよい例です。Touchanoteは一部のAndroid携帯で利用できるNFC非接触ICカード機能を利用して、現実に貼ることのできるシールとEvernoteとつなぎます。使用例として:

  1. 奥さんがいつもテレビのリモコンの使い方を忘れるので、Evernoteにリモコンの使い方を書いて保存しておく

  2. TouchanoteのNFCシールと、リモコンの使い方を書いたノートをリンクさせる

  3. シールを印刷して、リモコンの裏に貼っておく

  4. 奥さんがリモコンの使い方に悩んだときに、本人がAndroid携帯でシールに触れると、使い方が表示される

ここでは二つの「ギャップ」が越えられています。まず、リモコンの使い方を知るためにEvernoteにログイン(しかも旦那のアカウントで!)しなければいけないというギャップ。二つ目に、「私」のデータが「奥さん」に対して、私が指一つ動かさずとも、その場にいなくとも伝わっているという伝達のギャップです。

サードパーティーの開発者に多く見られた傾向として、このようにEvernoteのデータをよりアクセスしやすくしよう、利便性を高めようという動きがありました。

これがきっと、Evernoteのデータを解放するもう一つの翼です。

もっと、もっとサードパーティアプリが必要

コンペティションに参加していたほかのデベロッパーの作品、そして会場で知ることができたさまざまな取り組みを総合してみて、Evernoteはこれまで以上に「データの保存先」であることを脱却して「保存したデータを活用できるプラットフォーム」を目指していることが見て取れました。

このことは、前回の記事で書いた不安を吹き飛ばしてくれそうな心強い進展でした。

一方、こうした動きをみてしまうと、ますます欲張りになってきてしまいます。Evernoteのデータを利用して、その上にいろいろなアプリを作ることができるのではないかと期待が高まります。

たとえば大学教育向けに作られた卒論支援システムだけを作ったり、地図情報とグルメ情報を紐付けたオリジナルガイドブックを作成するアプリであったり、アイディアは尽きません。あの会社と力をあわせてあんなアプリを…いや、あのアプリと統合してあんな機能を…という具合です(笑)。

こうしたサードパーティーのアプリの登場こそが、以前書いた「Evernote がもっている、Googleをも凌ぐアドバンテージ」を有効活用することにつながるような気がしています。

Evernoteはまだまだこんなものではない。まだ象は飛び立ってすらいないぞ、という確信がもてて、それだけで満足の会議でした。

引き続く記事では会議そのものの詳細と、みたいもん!のいしたにまさきさんといっしょに回ったサンフランシスコツアーについてご紹介したいと思います。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。