ライフスタイル係数:「時間」から見る格差社会について

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「どれくらいお金があれば満足か」「物価が同じとして、他人よりも相対的に裕福なのがいいのか、相対的に所得は少なくても十分な額をもっているのがいいのか」「昇給と休日のどっちをとるか」

昨日のエントリーではあまり説明もなしにこの3つの設問を紹介していましたが、それらはすべて Tim Ferris の The 4-Hour Workweekの哲学に通じていて、非常に考えさせられる質問です。

まず第一に「どれだけお金があれば満足か」という質問に対して、このアンケートでは多くの人が 20万ドル以上の年収と答えていました。でもたぶん、多くの人が深く考えずに「多い方がいい」と考えると同時に「でも年収100 万ドルは無理だろう」というバランスの結果、この数字になったのではないでしょうか。

第二の質問は「年収20万ドルの人たちが住む世界で年収10万ドルになるのと、年収2.5 万ドルの人が住む世界で年収5万ドルになるのではどっち」という質問でしたが多くの人が、前者、つまり絶対所得の方が大事と答えていました。

第三の質問は「20% の昇給と金曜日を休日にするのとどっちがいい?」という質問でした。Tim のブログの読者はちゃんと 4HWW の本を読んでいるらしく、休日を取った方が時間平均した所得は得だということに気づいていたみたいです。

たとえば1日8時間労働として、1週間の給料を同じとしたら、2割昇給の場合は結局 40 / 1.2 = 33.3 で割っていることになるのに対して週休3日の場合は32で割っていますので、週休三日の方が若干得です。休日を副業にあてたり、スキル向上のために使うなら、分はどんどんよくなりますが、まったく何にもしないでリラックスしているだけでも得というのが面白いです。このお得率は1日に何時間働いているかによりません(昨日のエントリーの間違いを指摘してくださった AoVA さん、ありがとうございます)。

この3つを組み合わせると、面白い結論が導けます。それが時間を考慮にいれたライフスタイル係数という Tim の考え方です。

ライフスタイル係数

シリコンバレーではいわゆるミリオネアが万人単位でいるはずなのに、こうした人の多くは裕福に過ごすよりも、さらに上の所得層を狙うために年中働いているという記事もあります。つまり、第1の設問で挙げられた、「幸せに感じるのに必要なお金の量」の話です。多いほど良いというわけです。

でも多くの人は第2の質問と第3の質問の意図、つまり相対的な所得ではなく、絶対所得の方が大事だという事、あるいは時間あたりの所得という概念も理解しているわけで、なんだか矛盾した結果になっています。

こうした結果になるのは、絶対的なお金の量を物差しにしているためだと Tim は指摘しています。彼はScience で発表された論文から引用して、「所得の増加は、その人をほんの短い間しか幸せにせず、すぐにさらに上の所得層との競争に駆り立てる」ことを説明した上で、数字としての所得の競争には際限がないので、むしろターゲットとすべきなのはむしろ労働1時間あたりのインカムだと唱えています。

そうしたライフスタイルにシフトするために、彼はいくつかのコツを紹介しています。

  1. 絶対年収ではなくて、年収を労働時間数で割った、平均時間給により注目する。たとえば同じ年収でも、週に40時間働いている人は80時間働いている人よりも2倍豊かだという見方をします

  2. 夢の実現にむけて必要なお金と必要時間を算出し、それを満たすための行動をとる。

  3. 「どこで」「何」をしていると幸せなのかという質問に対する答えを追い求める。「いつか」お金が貯まって時間ができたら幸せになるのではなく、「ミニ引退」をいくつも作って人生を豊かにしてゆく

こうした、旅行や夢の実現のために利用している時間と、労働時間との比率を Tim はライフスタイル係数と呼んでいます。つまり1日の休暇を得るために何時間働いたかという数値です。彼のブログにはこれを算出するウェブフォームもあります(結果にかなりショックを浴びる可能性もありますので、ご注意を!)。

これを読んでいるうちに、ちょっとばかり暗い気持ちにもなりました。今は格差社会という言葉がよく叫ばれていますが、単純な年収というだけでなく、平均時間給でみた格差社会はいったいどうなっているのでしょう?

「働いても働いても仕事が減らない、給与も増えない」「もうモノなんていらない、時間がほしい」

GTD や ライフハックが人気を博する背景には、こんな風に時間に追い立てられている私たちが無意識にせよ意識的にせよ、時間からみた自分の価値を高めようという欲求も働いているのではないでしょうか?

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。