[Habit1] 想像力で難関を乗り越える2つの方法

imagination.jpg *月曜日は「第一の習慣」の日です。ここでは「主体性を発揮する」ために日常に導入することのできるテクニックについて紹介していきます。 *

数年前、任期満了にともなって職を失ったことがありました。自分の無為無策と、単に運が悪かったのと両方が原因だったのですが、それはともかく次の職が決まることがないままデッドラインが刻々と迫ってくる感覚は非常に胃の痛いものでした。来月からどうしようか。家族はどう養おうか。いままで信じてきた道を進むのがいいのか、それとも転身すべきか。

幸いなことにそのときはちょうど、モレスキン手帳を使ってユビキタス・キャプチャーを始めたころでした。「さあて、ここが正念場」 と自分に言い聞かせたのを覚えています。「いろいろ頭でっかちに悩んでいるようだけれども、この不安から抜け出したいと思うなら、とにかくまずすべてをここにかかなきゃいけない。さあ、全部はき出してしまえ」

そうしてこの二つのハックが生まれました。

テクニック1: 地獄篇

まず最初に行ったのは、**「自分の不安をすべて書くこと」**です。この場合、職を失った際に起こりうるすべての不都合なことを箇条書きしていきました。

まず、そのとき在籍していた大学の研究室から追い出されることを想像しました。次に思い浮かんだのは金銭的に苦しくなってきたときの家族の声でした。周囲の人間関係がどのように変わってしまうのか、急に周囲の人が冷たくなりはしないかということも不安に思われました。すでに当座のアルバイトを決めていましたが、それだけで生計が立てられるかも心配になりました。

考えつく限りの心配事で一気にページを埋めていくと、面白いことに気づきました。一つ一つの心配事はなるほど深刻なのですが、もっとたくさん書けるだろうと思っていたのが、思っていたほどは多く出てこなかったことです。また、いくつかの心配事はほとんど同じことの繰り返しだったり、あるいはもう過去のことだったりして心配したところで変えられないことでした。

**時間をかけてこの「地獄リスト」を頭のなかから出しただけで心が軽くなるという心理的な効果がうまれ、次第に同時に落ち着きをとりもどせてきました。**この小さな心の余裕を使って、一つ一つの心配事に対してとりあえず「やらないよりはやった方がいい」対策を考えることさえできるようになりました。

たとえば周囲の人が冷たくならないか心配するよりも先に、「来月から心配をかけますが、きっと乗り切ります」と先手を打って話しかけたり、周囲の人とコラボレーションできるような研究をぎりぎりまで提案する、といった行動を思いつきました。研究室を出て行けといわれた場合に備えて、荷物を整理するとともに、空き部屋の片隅でもいいから仕事ができる場所を与えてもらえるように偉い人々に掛け合うということも思いつきました。

詩人のロバート・フロストが「多くの人が労働よりも心労で倒れるのは、労働に精を出すよりも心労に精を出しているからだ」と言ってのけたのが、しっくりときた作業でした。

テクニック2: 天国篇

とはいえ、そうした不安を一つずつ打ち消しても、まだ残りがちなものがあります。迫っている締め切りだったり、やりかけの大きな仕事などです。

こうしたことに対して、今度は逆の発想を加えてみることにしました。まず、自分に無限の技術と才能とリソースと時間が与えられていると仮定します。そして、そんな無敵の自分だったら、目の前の不安に対してどのような行動をとるか? という想像をしてみました。

それはちょうど学位に向けた論文が滞っていた時でしたが、頭の中で想像した最高にかっこいい自分はすべてのことを完璧にやるのかと思ったら、意外にも「この研究はここが一番大事だ、だからここにすべてのリソースを投入する」と即断即決で見切りをつけ、有り余る能力を論文の特定の一部分に投入している様子が思い浮かばれました。

あとで考えると、それは自分が敬愛している研究者の姿を模倣していたものだと気づきましたので、それからは壁にぶつかるたびに「あの人なら、どのように行動するか」と、その人物を召還して解決方法を模索するのがクセになりました。

この試みは不思議な後遺症をのこしました。**この脳内シミュレーションのあとは、まるでその「完璧な自分」の一部分が自分に乗り移ったかのように、仕事のスタイルが変わってしまうのです。**これは先日紹介した本のなかでロビン・シャーマが「いちばんなりたい人物のようにふるまうと、いつしか自分がその人に似てしまう」という習慣を実践していたのだと、あとで気づきました。

想像力という武器

当時はまったく必死にやっていたにすぎないのですが、あとでスティーブン・コヴィーの「7つの習慣」を読んで、それは主体性を発揮するための4つの条件、Self Awareness 「自覚」、Imagination 「想像力」、Conscience 「良心」、Independent Will 「自由意志」のうちの「想像力」だったということを 教えられました。

現状がどうあれ、それを自分の想像力で作り替えてしまうと、現実がそれをトレースする。トレースしないまでも、心配事で行動できずにいた状態から、自分から行動できる小さな余裕が生まれるという体験でした。主体的に行動したい、でも現実の行動は制限されている、という時におすすめのテクニックです。

さて、先週の「自覚」、今週の「想像力」ときて、来週の月曜日は「自由意志」のテクニックについて書くことにします。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。