The 4-Hour Workweek: 週4時間しか働かない仕事術 (2)

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「週4時間しか働かない」ための本なのに、なぜルールを曲げる思考方法や、恐怖の克服の話から始まったのか。それは、仕事・余暇・金銭のバランスシートをみたときに、あまりにも仕事に偏っているライフスタイルを見直すことから始めないといけないからだと著者は主張しています。そのためには、現状の心地よさをうち捨てる必要があるからです。

「週4時間しかはたらかない」のは「4時間で超人的に働く」ことではなく、4時間で済むように自分の仕事をアウトソーシングし、自動的にお金が入ってくるキャッシュフローを作るようにというのがこの本のねらいだと著者は随所で紹介しています。

この時点で、この本は普通いわれている意味での「ライフハック」とは決別していることになります。仕事は片付けるのではなくて、断れるだけ断り、残りはアウトソーシングしてしまう。長期的なビジョンが大事なのではなくて、すぐにでも夢をかなえる行動力を優先する。

こうした考え方は GTD とも 7つの習慣とも真っ向から対立しつつも、奇妙な点で一致している気がします。それは大事なことを優先するという考えです。ただそれが、9時から17まで必死で働くことではない、という点が違うだけのことなのです。

小手先の仕事を便利にするというよりも、人生そのものをハックしてしまおうという野心的な試みについて書かれた本。昨日に引き続いて、今日はドリームラインを作ることについての章を斜め読み。

不可能に見える目標の方が実は実現しやすい

話しかけることができそうにないほどの著名人を3人選び、48時間以内にそのうちの最低一人から 3 つの質問に対する答えを引き出すことができるか? できたなら、世界のどこであれ、望みの場所への往復チケットを進呈する。こんな一見無茶な注文を著者はプリンストンの学生たちに要求したところ、最初は20人の学生全員が言い訳をしながら失敗したのに、一つのコツを教えると今度は 16 名中 7 名が成功したのだそうです。

そのコツとは、**「不可能に見える目標の方が実現しやすい」**という彼の持論です。

著者である Tim は、ほとんどの人が自分の目標を「無理だ」と思ったあげく自分からあきらめて中庸を目指していると指摘しています。そのせいで「そこそこの成功」を狙う人間が最も多くなり、中流よりもちょっと良い生活を目指す人々の競争は熾烈を極めるという一見矛盾した現状について書いています。実際問題として、1億円をかせぐのを目標にするよりも、10億円をかせぐことを目標にした方が実現の度合いははるかに高いのだとか。

ドリームラインを作る

ドリームラインとは、上の教訓をベースとして無茶とも思える目標をたててから、それに向かった現実的なアクションをたててゆくプロセスのことを指しています。

自分は無敵であると考える。自分は残りの人よりも10倍頭がいいと仮定する。銀行預金に 100 億円が入っているとしたなら、毎日朝起きて何をまずするだろうか? どこにいくだろうか? なにを目指して行動するだろうか? というような思考実験をして、本当に自分が目標としていることを洗い出していきます。

特に目安として、次の6ヶ月から12ヶ月で「手にしたいもの」、「なりたいもの」、「したいこと」をリストにしていき、そのなかでも特に重要なことを4つ選び出します。

スポーツカーがほしい、世界一周の旅行がしたい、といったお金のかかる夢なら、それにかかる金額も算出していきます。ここでも、Tim は漠然と考えるよりもちゃんと調べた方がいいと繰り返し指摘しています。26万ドルのスポーツカーでも、存外数千キロしか走っていないのがオークションに 14 万ドルくらいで売っていたりしますし、世界一周の航空運賃だって高いことは高いけれども調べる前に思うほどは高くないものだという話です。

こうした夢の実現にかかるお金や、「中国語を学びたい」だったら必要だとおもわれる時間などを、実現までにかかる月数、日数で割り算して、いまから増やさなければいけないキャッシュフローの大きさ、解放しなければいけない時間の量を算出します。

14万ドルの車なら、ローンにして月2000ドルくらいと当たりをつけたうえで、一日に 65ドルの収入源が必要になる この数字が、とりくまなくてはいけないベースラインとして今後の章で意味を持ってきます。

ストレスではなくユーストレスを引き受ける

この章でも、心に突き刺さるような一文がありました。

The most important actions are never comfortable

最も重要なアクションは、いつだって心地よいものではない

このような型破りな願望を実現したいないのなら、心地よい現状から踏み出さないといけない。それはストレスの中で生きろと言うことではなく、多少の困難や批判をチャレンジと受け止め、健康的なストレスである「ユーストレス」に変えられるようにならなければいけないと著者は提唱しています。

そのために、章末に1つずつ居心地の悪い状況でも心を動揺させないための鍛錬のしかたを紹介しています。しかし、これがもう、ハックを通り越してはた迷惑な領域に片足を入れているようなものばかり。

「他人と目を合わせて、相手が視線をそらすまで見つめ続けられるようになる」とか「毎日、見ず知らずの魅力的な異性二人から電話番号聞き出す」といったものです。

こうした特訓が日本で現実的かどうかは別として、いいたいことはよくわかります。他人を恐れないようになること。他人からやってくるストレスやトラブルを忌避するのではなく、ある程度は引き受け「そんなのはたいしたことない」と思えるまで自分を訓練することなのだと思います。

ライフハックを追い続けて長いですが、ここまで精神的にきついのは初めてです。自己改造に等しいですね。用法、用量をおまもりの上、自己責任でチャレンジしてみてください。私はそこまでやるのは無理なので自分なりにカスタマイズしてやってみることにしてみます。

明日はやっと、実働時間を減らしてゆく工夫についての章になります。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。