情報体験としてのツイッターの劣化を危惧する

情報は、そこになんらかの信頼があるからこそ受け取る価値があります。「1」という情報が本当は「2」であったり「3」であったり、「猫」であったりしたのでは、それはノイズとあまり変わりません。

これは単に情報の真偽だけではなく、体験としてのノイズの多寡という切り口でも言えることなのですが、それについて今日ツイッターで軽く触れた瞬間がありました。片瀬さんの「偽情報」「デマ情報」に対するツイートに反応する形でのいかのいくつかのつぶやきです。

かつてGoogleが考慮していたというAuthorRankみたいな、情報シグナル(真実ではなく議論も含む)には正の重みを、スパムには負の重みをつけるスコアを個人につけたい https://t.co/UyI8mggvVX

— 堀 E. 正岳(ほりまさたけ) (@mehori) 2017年1月14日

たとえばトランプ氏はPolitiFactで発言の半数が嘘か誇張であることが指摘されているけど、そのスコアに応じて発言時間は短くするとかあってほしい。もちろんこんどはPolitiFactが偽ニュースだと言われるけど

— 堀 E. 正岳(ほりまさたけ) (@mehori) 2017年1月14日

ツイッターに関しては、すでにユーザーからのスパム報告のシグナルや、数百のアカウントで同一ツイートを流してるのを検知するスパムシグナルとか、パクツイ検知とか、簡単に算出できるスコアすら作ってないので検索結果が何十万ものbotの巣窟になっていて、それは遠からず自滅の原因になるはず

— 堀 E. 正岳(ほりまさたけ) (@mehori) 2017年1月14日

ツイッターが伸び悩んでるという話は、ユーザー数とエンゲージメントだけでなく、情報体験で期待されるS/N比が悪くなっていることからも論じないといけないのだけど、それはデータがほしい

— 堀 E. 正岳(ほりまさたけ) (@mehori) 2017年1月14日

途中で少し話がかわっているのは、まさにそうしたデマ情報追跡機能をツイッターにつけてほしいというリプライが入ってきたからです。後半はそれに反応しています。

私が危惧しているのは、情報のコンジット(伝搬管)であろうとするあまりに、ノイズを放置していれば必ずそれはツイッターの情報体験としての有用性を蝕んでしまうという点です。このノイズには、スパムだけでなく、情報としては正しくてもPVほしさに同じつぶやきをタイムラインに何百というアカウントからつぶやくbotアカウント、他人のツイートを盗んで再投稿する行為の蔓延、差別・侮辱・ストーキングの横行なども含みます。

たとえばある瞬間に、トレンド入りしているキーワードで検索をかけるとすでにそれを検知した無数のbotが同一内容でつぶやいていて、それを目で除去するだけでもストレスがかかりますし、それにどんな話題にも差別的なツイートを混ぜて自説を広めようとする迷惑アカウントも乱入して常にカオスが広がっています。

情報慣れしているひとはいいとして、これが子供や普通のひとにでも使える情報空間かというと、程遠いでしょう。それが情報体験としてツイッターを歪め、いずれはそういう使い方しかできない場所として自らを袋小路に追い込むのではないかと思うのです。

ツイッターはすでにそれをスコアリングして、つぶやきは許してもタイムラインに掲載しないなどといった重み付けをするための情報をすべてもっているのに、どういうわけかそれを実践していません。すくなくともなぜ数百のbotが常につぶやいているのを放置しているのかは謎です。

プラットフォームが、プラットフォームでいられなくなくなる日

そのとき、まさに読んでいたのが2日前の Verge のこの記事です。

Inside Twitter, employees reckon with Trump

これは、アメリカ大統領選挙の直前、直後の、ツイッター本社内における混乱や、もしかするとトランプ政権を生み出してしまったのではないかという責任論について、ツイッター社員に匿名できいた記事で、内部の混乱の様子が伝わってきます。

そのまとめの文章が、ツイッターらしさをもちながらも、ひょっとしてまだこの期に及んでもなにもわかっていないのではないかという危惧を感じさせます。

“Now the tenor has shifted to, you know how we’ve talked internally about how Twitter is a tool of dissidence and rebellion, and keeping governments accountable? Now this plays a little more critical role in the domestic side of things,” one former employee said. “That’s the role our platform plays. The same way it was vital in the Arab Spring, Twitter will play that same vital role in the United States.”

選挙後、ツイッターでの雰囲気は少し変わった。ツイッターが政治的異議と反乱のためのツールで、政治の説明責任を可視化するツールだということを我々はずっと言ってきたが、それがアメリカの国内問題にまでやってきたのだ。それがプラットフォームの役割で、アラブの春で果たしたのと同じ役割を、今度はこの国でも続けるのだ。 アラブの春のようなムーブメントが可能となり、可視化された出来事におけるツイッターの役割は大きかったのですが、一方で声の大きな嘘と暴力に対しても巨大な拡声器を渡したことを私たちはイスラム国の隆盛と彼らのSNS活用から知っています。本当に、プラットホームとして「私たちは拡声器以上でも以下でもない」という態度でいいのでしょうか?

プラットフォームが確立すると、そこにスパムが混じります。嘘と、雑音と、すべての価値に対して逆向きの価値も存在するという反・情報も加速して増えます。そうした増えつづける情報における有用性の抽出と保護こそが、これから数年の一つのテーマになるのだなという印象です。

それはツイッターだけでなく、ウェブメディアにも、昨今騒がしいキュレーションメディアにも、ブログにも、全てが関係してきますが、もっともツイッターが最前線になるはずです。

もちろん、それまで、ツイッターが残っていればの話ですが。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。