Google翻訳の強化でもっとも得するのは翻訳家という妙

先日から、Google翻訳の精度が英語から日本語への翻訳において飛躍的に向上したと話題になっています。

特にGoogleからなにか告知があったわけではなさそうなのですが、これは従来のフレーズベースの翻訳ではなく、ニューラルネットワークを応用した「Google Neural Machine Translation(GNMT)」が日本語においてもロールアウトし始めているのだとみてよさそうです。

実際に試してみた印象と、現時点ではこれが逆に英語をしっているひと、翻訳家にとって朗報である理由について軽く書いておこうと思います。

まず試してみたのは、先日 The Atlantic で読んだ「スマートフォンでプルーストを読破する」という内容の長い記事です。

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この段落を、Google翻訳にかけてみると、次のような文章になります。

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なるほど、完璧というわけにはいかないのですが、ちょっと驚いたのは最後の行で “once he was sure no one was watching him” と付け足された部分を、日本語においては適切に文章の中心部分にもってきて「誰も彼をみていないと確信した後、」と句読点つきで翻訳してくれた点です。

あるいは、途中英語ではない言語が入っている部分は、ちゃんと過剰翻訳することなく英字のままにしてあるのもしびれます。

ニューラルネットワークは、文章をたんにフレーズの断片ではなく、意味のある連なりとして認識して過去にトレーニングされた文章例に基づいて翻訳をしていますので、こうした意味の通る翻訳を実現できるのでしょう。

今回は「英語から日本語」の精度が話題になっていますが、以前に比べればずいぶんと進化してきた「日本語から英語」もチェックしておきましょう。

たとえばこちらは、先日の Snapchat の発表した新しいデバイス、Spectaclesについての記事を翻訳にかけてみた様子です。日本語の中に英語も混ぜていますし、私がよく利用するちょっと長めの修飾関係も盛り込んであります。

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この文章を翻訳にかけてみたのが以下になります。

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翻訳結果をみてみると、私の文章の特殊な用語のとりまわしについていけていないために、意味が伝わるのは80%ほどにとどまっています。しかし驚くのは、“it seems like a rebirth of a failed wearable” といったフレーズを使いこなせているところです。

今後GNMTがどんどんと取り入れられて精度が高まることを思えば、とても希望がもてますね。

短期的には、英語のスキルを持っている人にとって朗報

こうしたニュースがあると、「翻訳家の人がいらなくなるのでは?」という反応になりそうなのですが、いまの二つの例をみても、短期的には逆のことがおきそうな気がします。

というのも、ニューラルネットワークが使用されている翻訳においても、結果は 80% ほどの完成度で、意図した情報が伝わっているか、読みやすい文章になっているかは最後にもうひと押し、人間が添削してあげたほうが良さそうだからです。

機械翻訳によって意味が変わっていないか? 読みやすく、楽しい文章になっているか? といった部分を確認して、読み物として消費可能なレベルにもっていくには、両方に通暁した専門家がまだ必要なのです。

ということは、このシステムは翻訳家の仕事を奪うどころか、テキストの最初の試訳を機械にまかせて80%の部分まで一瞬で翻訳を行えるわけですから、むしろ翻訳家の生産性をあげるとみていいでしょう。

この同じシステムがスマートフォンのアプリからもつかえるわけで、しばらくは自分の書いた英文を日本語に、あるいは日本語の論文草稿を英語にしたりと、ふだんの仕事にも応用してみようと思います。

あるいはこれが、来るべきAIとの共存共栄の最初のモデルケースとして社会に定着するのかもしれないと思うと、なかなかワクワクします。

ふだん英語のサイトになかなか手が出せないという方は、ぜひ使ってみて、その翻訳精度を試してみてください。

 

 

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。