まさに論文工場。アウトラインプロセッサとエディタを融合したManuscripts
どんな科学的発見も、最後は論文にしなければいけません。発見は発見でしかなく、それを文章にまとめて、他のひとが理解できるように共有できてはじめて、それは知見となるからです。
同じことは、私の本業である科学の最前線であれ、大学の卒業論文であれ、こうしたブログ記事でも同じです。
しかしこのプロセスが苦手だという科学者は実におおぜいいて、この「論文の壁」が多くの才能を阻んでいるといっても過言ではありません。
こうした論文作成の作業については、いままでそれに特化したツールがあるようでいて、なかなかありませんでした。
Manuscriptsはそうした状況に一石を投じるとても個性的なツールです。エディタと、アウトラインプロセッサ、図表や数式に参考文献をすべてひとつのツールで執筆できる、まさに論文作成工場なのです。### 段落まで構造化されたアウトラインプロセッサ+エディタ
なぜ科学者にとって論文を書くのが大変なのかには多くの理由がありますが、その一つが高度に論理的な内容を、文章という曖昧さが入り込みやすいフォーマットに落としこむ作業に慣れていない人が多いというものがあります。
Manuscriptsはそれをアウトラインプロセッサとエディタを統合することで解決しようとしています。
こちらがManuscriptの画面になります。左側のパネルには作成している文章のアウトラインがあって、それぞれに対応する文章が右側のエディタパネルに表示されています。
Manuscriptsは自由なエディタというよりも、段落単位で構造化された文章を作成するのに特化しています。“About Manusciripts” の上下に「+」がみえているのは、この上下に段落や見出しといったコンポーネントを追加するアイコンになっています。
これ、Scrivenerを知っている人ならばピンとくると思うのですが、実際には Manuscripts のほうがScrivenerよりもシンプルで制限の多いつくりをしています。そして、この場合は制限が多いほうが「論文という構造化文書を書く」という目的には良いのです。
Manuscripts で論文を作成する際は左パネルでまずは文書の構造を決め、それに満足したらそれぞれの段落の中身を埋めていきます。
こうしたほうが、論理的にむだな繰り返しや、矛盾点をあらかじめ洗い出しておくことができるからです。
それぞれの段落にはターゲットとする最少・最大ワード数などを設定できますので、単語数の制限がきついレター論文を作成する際などの目安に使えます。
論文を書くのが苦手なひとは、段落ごとのワード数を100くらいに設定して、とにかく与えられた内容をその単語数になるまで書くという作業を繰り返すだけでも作業が進みます。これ、本当におすすめの手法です。
論文作成ツールであるからには、図表とそのキャプション、数式、参考文献などにも対応していることが望ましいでしょう。Manuscriptsはそのすべてに応えることができます。
まず図表は普通にオブジェクトとして挿入し、キャプションをつけるとアウトライン上の “List of Figures” の欄に図表のみがまとめられていきます。
参考文献は、Papers と連携しますので、引用だけしておけば書誌情報は Papers から引っ張ってくることができます。
数式の作成も、Manuscripts のなかで行なうことができます。任意の場所で数式を挿入し、それを LaTeX 形式で入力すると自動的に数式が描画されます。
実際にシステムに LaTeX がインストールされているなら、それを利用して文章を数式も含めて PDF に変換することもできます。
多彩なエクスポート機能
さて、高速に論文の構造をプロトタイプして、文章を書き込んだら投稿用にエクスポートする必要があります。Manuscriptsは結局のところはMarkdownエディタのようなものですので、これも複数フォーマットに簡単に変換できます。
Word、HTML、Markdownはもちろん、RTF やApple Help文書も作ることができます。LaTeX経由でPDFにも変換できますが、これは数式などを美しく表示したい時に活用したいですね。
実際に、ManuscriptsからエクスポートされたWord文書をそのまま投稿するのは、雑誌毎の規定もあるでしょうから難しいのですが、「執筆」「推敲」という80%の作業をManuscripts上でおこなうことができますので、Wordでの作業は最後の仕上げだけにとどめることができます。
まだまだバグが多い…でも今のうちに使い始めたい
Manuscripts はようやくバージョン1.0がリリースされたばかりですが、まだまだ動作にはバグが多くて、時折予想もしないクラッシュのしかたをするケースが残っています。
たいていの場合は、最後の保存がのこっていて、再現数にかぎりなく復帰することができるのでよいのですが、本当に大切で緊急性の高い仕事に使うのは現時点では危険かもしれません。
しかし製品としてのコンセプトはしっかりしているうえに、バージョン1.0でできることの完成度も高いので、期待値が非常に高いツールであることはたしかです。