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「ジョナサン・アイブ」はデザインについて「知っていること」と「知らないこと」をつなぐ本である

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サー・ジョニー・アイブ。その名前はiMacにiPod、iPhoneなど、アップルのヒット商品のデザインすべてに関わっている人物として、スティーブ・ジョブズの片腕として活躍した人物として知れ渡っています。

製品についてはアップルの公開するビデオのなかで熱く語る彼ですが、その人となりや、完成品に至るまでの試行錯誤の様子はなかなかすべてみえてきません。

これほどまでに私たちの生活をかえた製品たちのデザインはいかにして成立したのか?これは実は歴史的な問題としても重要であるにもかかわらず、です。

100年後の人がこの時代を振り返る時に、どのようにしていまの社会を牽引するデバイスが誕生したのかはとても興味深い問題でしょうから。

日経BPから刊行された「ジョナサン・アイブ」はそんな秘密の全てを明かすものではないかもしれませんが、デザイナー、ジョニー・アイブの姿を彼の生み出した製品の光で照らしだす本になっています。

「知っていること」と「知らないこと」

これまでにアップルのいまの一時代を描き出す本は複数発表されています。ウォルター・アイザックソン氏によるスティーブ・ジョブズの伝記、「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン」「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション」などといった本です。

これらの本はアップルが疲弊していた時代から、シリコンバレーの他の会社との熾烈な競争を経ての栄光を描き出していて、私たちの同時代の伝説として必読の本になっています。

しかしその一方で、この伝説がコンピューターのハードウェアに関するものである以上、そのデザインや成り立ちについて語らずにはピースが欠けています。

本書はその失われたピースを埋めるものなのです

人間、ジョニー・アイブを、製品から描き出す

本書ではジョニーの生い立ちから、どのような教育を受け、そしてどのようなトレーニングを経て今に至ったが詳細に解説されています。

彼がインダストリアルデザインの潮流に合わせたデザインをそつなく手がけ、やがて自分のオリジナリティを発揮してゆくに至る出会いとプロジェクトの流れも追っていて鍛冶場の職人の手つきをながめる楽しさにあふれています。

そして、この本にリアリティーを与えているのは、私たちがすでに知っているiPhone、iPad、あるいはMacBookなどといった素晴らしい製品についての私たち自身の体験なのです。

読者である私たちはすでにあの製品たちがどのような手触りをもっているか、どんな高級感があるかを知っています。そしてそのデザインの素晴らしさにジョニーの才能を感じ取っているのです。私たちはそれを「知っている」わけです。

しかし全てを知っているわけではありません。いかにしてデザインが成立したのか、素材の選別、加工に関してどうしてそのような選択がなされたのか、どんな試行錯誤があったのかは、私たちの「知らない」ことです。

本書はそれを膨大なインタビューや、過去の記事から描き出してゆき、私たちがすでに知っているあの手触りと質感を、これまで知らなかった、その背後にあるものへと結びつけてゆくのです。

また、製品についての解説なので、人物であるスティーブの感情の表現などとは違った、異質な「萌え」が全編で感じられるのも一読する価値があります。

iPodの白いプラスチックの表面には輝きを与えるために非常に薄い透明のパースペックス(アクリル樹脂)が重ねられている。透明の層はほんの少し浮き上がっているだけなので、横向きに持ったときにしか見えない。これがiPodの透明感のあるふたになっている。またクリアコートのおかげで「製品周りに後光がさしているような効果が生まれる」とジョニーは言う。確かに、iPodは輝いていた。

ほんとうに、こんな表現が本の至るところにあって、マテリアルとマニファクチュアに対する萌を心ゆくまで楽しむことができます。こんな喜びがあったなんて初体験というひともいるはずでしょう(笑)。

本のちょうどまんなかあたりに初代iMac開発の逸話が入り、そこから怒涛の勢いでiPod、iPhone、iPadなどの製品の開発の話題が入ってくる部分は一気に読むことができますが、そこを楽しむためにも多少ペースがゆっくりとした前半でジョニーの世界を構成している用語に慣れておきましょう。

さて本書、唯一難点があるとすれば、どこまでがジョニー・アイブ本人やアップルから聞き出すことができた情報で、どこからが伝聞なのかいちいち原典をたどるのが難しい点です。

解説は非常にリアリティーに溢れていて臨場感がたっぷりありますが、開発に関する詳細が秘密につつまれているアップルのこと、注意深く読む必要があります。

とはいえ、わたしたちはすでにその成果を目にし、手にし、疑いようもない才能の姿を認めているのですから、あとは本書の著者とともにこの天才デザイナーの思考の中に飛び込んでゆくのでよいのでしょう。

まったく異なる製品への挑戦となるApple Watchのリリースがささやかれていますが、これからの未来を未来として知覚するためにも、いまの最先端のデザインがいかにして誕生するものなのかを知るのは有益でしょう。

本書を書評用に送ってくださった日経BPに感謝します。

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著者について

堀 E. 正岳

「人生を変える小さな習慣」をテーマとしたブログ、Lifehacking.jp 管理人として、仕事術、ライフハック、テクノロジー、文具、ソーシャルメディアなどについて執筆中。2011年アルファブロガー・アワード受賞。Evernote ライフスタイルアンバサダー。ScanSnapアンバサダー。この他のブログに、ライフ×メモ 、Climate+を運営しています。

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