つぶやきっぱなしはもったいない。ログをもつことの知的な戦略
読書にふけっていなくても、学者じゃなくても、知的生活は可能です。
いや、すでにしているのです。あなたのブログが、Evernoteが、Tumblrが、ツイッターがすでに「知的生活」なのです。ログを意識すれば、こうした活動は「時間の浪費」ではなく、立派な知的活動の蓄積になるのです。
このことを教えてくれるのが渡部昇一氏が「知的生活の方法 」を刊行したとき、テキストとして随所で引用していたのが1873年に刊行された P. G. ハマトンの「知的生活 」です。
本書はさすが140年近く前に出版されたこともあって、古臭く、時代にあわない点も多いのですが、この本のメッセージや構成にはいまも学べる点が多くあります。
ハマトンは、この本を手紙形式にして「教師の人に向けて」「婦人に向けて」といった特定の人を対象に語ったり、「時間がないと嘆いている人へ」「大きな才能をもっていて将来に野望を抱いている人へ」といったように、心のなかになにかを抱えている人にむけて語りかけています。
乱暴にまとめるなら、本書は「読書をして学者のように生活するのが知的生活」という捉え方を廃して、**「それぞれの立場で創造性を発揮することが知的生活」**という力強いメッセージを与えてくれています。
このことが、今とどう関係するのでしょうか?### ログを持つこと
たとえば震災以降、放射性物質の飛散や健康の影響に関する情報や、対策についての情報がネットでは飛び交っています。なかには事実よりも何らかの意図を押し通すことを目的とした情報も散見されるために、「情報を読む」必要性は個人のレベルにまで還元されています。
正確な情報や、より深い理解をもとめてネットを検索することは、ハマトンの時代における読書や知識人との交流に相当するといってもいいでしょう。
見た目が「読書」と「ネット」で違うだけで、私達が手に入れることになる情報の量、質、そして専門家へのアクセスの容易さは19世紀末の比ではありません。
同様に、パソコンのトラブルを解決するためにネットを検索することも、自分の知っている技術をつぶやいたりすることも、それを Evernoteや Tumblrにクリップしてゆくことも、一時代前ならエッセイを書いたり、情報カードに知識を書き写す行為に相当します。
私たちの手にしている情報の高度さと量は、誰もが知的生活をいとなんでいるといってもいいレベルにあるといえそうです。
ふだんの生活を「ログ化」しよう
しかしもったいないことに、ネット上における活動を「ログ化」して蓄積している人はまだまだ一部であるように感じます。ツイッターのつぶやきを言い放しにしたり、調べたことをそのままにするよりは、ログを意識して蓄積することで、その情報が個人にはりついて知的生活の深みを増してくれます。例をみてみましょう。
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特定の話題、たとえば好きなアーティストやプログラミングの情報などを調べることが多い人がブログを作るだけで、その知識をより集める「中心」が生まれ、単に好きであることが知的生活化します
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ツイッターの発言にある種の主義や主張を交えているなら、それをまとめるブログ記事や、まとめページを作成しておく。ツイッターのつぶやきがしだいに過去になるに従って検索不能になってゆくことを考えると、こうしたページを作ることで検索可能性が保持されます
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Evernoteでクリップする情報や、Tumblrでクリップするページに、方向性を持たせてみます。ランダムな情報よりも、ある一定の方向にマニアックな方がその人が何に興味があるか、何に長けているのかを明らかにして、ログがあなたの自己表現になります。また、方向性がある方が、ランダムな情報収集よりも楽にクオリティを向上できる点も見逃せません。
え? そんなものも知的生活といっていいの? と思われるかもしれませんが、もともとハマトンが知識を蓄えることが知的なのではなく、創造性を発揮する生き方が知的生活と言っていたこととなんの矛盾もありません。
むしろ今のほうが、情報へのアクセスにかかるコストが低い分、知的生活は誰にでもできる生き方といえるでしょう。それには、どこかに「あなた自身」を投影できるログを持っていることが重要なのです。
今だったら、ハマトンはどんな人に向けてどんな助言を与えてくれることでしょうか?
「ツイッターでつぶやいてばかりのきみへ」「Facebookで大勢の人と交わることを現実に会うことの代わりにしているきみへ」「電子書籍では頭に入らないと嘆いている学生へ」といった表題の手紙が続くのでしょうか?
クラウド時代の知的生活は、「読書と執筆」という19世紀的な知的生活を現在に再度マッピングしたことに他ならないのです。
そこに今度は、GoogleやFacebokといった、人間ならざるものが混ざっていきます。このあたりは次週に!