Evernoteを単に情報整理ツールだと思っていると数年後に後悔するかもしれない理由
みたいもん!のいしたにまさきさんがスーパーコンシューマーとともに「とれるカメラバッグ」の開発を進められているという、これだけでも心躍るニュースなのですが、その企画第1回の対談でとても大事な点に触れられています。
いしたに「エバーノートにもすごく多い勘違いがあって、 すごい便利なメモツールって認識している人が多いんですよ。 記者とか雑誌の編集もそういうスタンスで取材に来ることが多いんですよ。 でも、メモツールと思ってると、なんでこんなに流行るか分からないんですよ。」
(中略)
いしたに「それとは何が違うのかと言うと、 日々、適当にやってることを、適当にここに突っ込んどくと、適当にいい感じにしてくれるんですよ。エバーノートがね。 そして、あとから、簡単に情報にアクセスできるんですよ。 自分の日々をログ化するツールなんですよ だから、大事なのは、クラウドでログ化ってことで、 メモとかは下のほうにあって、最末端にiPhoneで使えるとかがあるんですよ。」
これは多くの紹介記事で見過ごされている非常に重要な点です。メモの編集や、ノートブック・タグ、画像認識機能、iPhone アプリなども使いこなしていなくても、ただ放りこむだけで価値が生まれていくということ、これが「Evernoteはライフスタイルサービス」だという意味です。「情報整理」という部分は、通過点に過ぎないのです。
「コンピューターの普及が記憶の外部化を可能にした時、あなたたちはその意味を、もっと真剣に考えるべきだった」
ここでやはり思い出すのは映画「攻殻機動隊」のこのセリフです。立花隆氏と映画監督の押井守氏の対談で、押井監督は記憶について次のように語ってます。
人間の記憶って実は、概ね捏造するわけですよね。(中略) だから人間の存在の大部分が記憶に依存しているんだとすれば、自分のオリジナルみたいなものは、実は記憶それ自体にあるわけじゃなくて、記憶を捏造する過程自体にあるんじゃないかという。いろんなデータを結びつけて、あのとき自分はどうだったああだった。あの人はこういう人だったとかね。自分はその人に対してこういう感情を持っていたとか、それは10年20年経つとやっぱり都合よく変ってくるわけなんですけど、そこの変ってくるプロセス自体が実は自分なんだという。
これはデータはいくら蓄積してもただのデータであり、それが自分の興味をひきつけた文脈、自分がそれをどのようにして受け止めたのかという「余白の注釈」が実は大事だということでもあります。
子供の頃に好きだったものを数十年後に見返して、「あれ? なにかが違う」と思うとき、それはオリジナルを前にした自分が変化しているからですが、データだけを保存して「過去がそこにある」と思っていると、こうした印象は手をすり抜けていってしまうかもしれません。
たまに「世界の名作小説を全部読む暇はないので、要約を読めば十分」という意見を書かれている人がいて、惜しいとおもうことがあります。音楽が音符ではないように、絵画が油の染み以上のものであるように、小説も自分の脳をくぐらせて残ったものが小説体験なのであって、いくらiPhoneの電子書籍で一生分の青空文庫をダウンロードしたとしても、その部分はボトルネックとして残るのです。そして幸せなボトルネックでもあります。
Evernoteも同じで、データとしての記憶を外部化して検索できるようになったからといって、それがもっている「意味」を捉えることを忘れていたら、Evernoteのなかには二度と見返すことのないウェブサイトのデータが山積するだけになるかもしれません。
だからこそ「印象」を「経験」を書き写していかないといけない。それがモレスキン本を書いたときに一番いいたかったことでもあります。
Evernote にクリップするときに最低限加えたいこと
Chrome 拡張機能などでEvernoteにクリップしたときに、テキストを挿入する欄が表示されます。私はそこに、たった一行ですがさりげなく「これはすごい」「これはひどい」「これは〜ということではないか」と、なぜそのクリップが琴線に触れたかを書きこむことが多くあります。
そしてこの一行が、逃れてゆく印象をかろうじてつなぎとめることに役立ってくれることが多いのです。
Evernote にウェブページをクリップするとき、どんな気持ちでそれをクリップしたのか、笑っていたのか、憤っていたのか、それを書きこんでみてください。
それが数年後、Evernoteをただの「情報整理」のツールから脱皮させて、人生の断片を再生させるツールに深化させる鍵となるのではないか。私はそんな可能性を感じています。
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