「やりたいこと」から逆算するリバース・スケジューリング

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毎日夕方の5時半には職場を「お先に失礼」して、それでいて一線の研究者として成果を上げ、人気ブログを書く方法があるとしたら? そんな方法があるなら、私こそそれを真っ先に実践してみたいです。

Study Hacks の管理人で MIT のポスドクが本業の Cal Newport さんのゲスト投稿がまさにこうした成果をたたき出すためのコツとマインドセットについて触れていて、うーんとうならされました。

まずは信じられない彼の活躍ぶりですが、MIT のポスドクとして研究を本業とし、プロシーディングも含めて 10 本の論文を書き、本を執筆したうえで、Study Hacks のブログも維持しているというのに、彼が働いている時間は毎日 8:30 から 17:30 の間だというのです。かれはこの5時半以降を完全にフリーにしておくのが好きだということで、運動や犬の散歩の時間も含めてこの時間までには完了させるようにしているというのだから驚きです。

いったい、どうやったらそこまでの活動を 24 時間のなかに詰め込むことができるかを、ゲスト投稿でかれは詳細に語っています。ここではその概要だけを紹介しましょう。

1. 理想のスケジュールをきめてから、すべてがそこに収まるように逆算する

彼はたとえば5時半に帰ると決めたなら、それ以降になにもしなくていいように雑用は切り捨て、電話や訪問は断り、コンタクトを取りにくくしてしまいます。

記事ではここでビジネス書の著者 Jim Collins の時間管理を紹介して、彼が「クリエイティブ 53%、教育 28%、その他 19%」と時間を区切り、エクセルで時間を集計しながら理想の時間配分になるように努力しているのと、Cal さんの方法は基本的に同じだということを説明しています。

つまり**「どのように時間を使うか」という結論が先にあり、行動はそれに即して変化させなくてはいけない**わけなのです。

2. 逆算スケジュールを維持するために発揮すべき4つの力

しかしこれは言うは易く行なうは難しで、理論としてはわかりやすいものの、実践する場合には大きく考え方を変える必要に迫られます。Cal さんの場合、次のような覚悟とともにこうしたスケジュールを維持しているそうです。

  1. 手がけるプロジェクトの数を大幅に減らす

  2. 毎日の時間を浪費する習慣を根絶やしにする

  3. 自分の時間と引き換えに、他人を多少苛立たせたり、怒らせたりすることを恐れない

  4. 先送りしないような仕組みをとりいれる

3. 時間を浪費しないためのマインドセット

こうしたスケジュールとルールを実践するためには、さまざまに考え方を変えるべき点も生じてきます。たとえば私にも覚えがあるのですが、大学で研究をしていた頃は「夜を徹して研究をしている偉いやつ」という自分を演じていることもありました。MIT でも事情は同じみたいで午前3時まで研究していたという「時差ぼけ」の人にならないように、彼は次のようなことに注意しているそうです。

  • 偏執的なまでに「結果」だけを追い求める: たとえば研究の場合「長い時間をかけて研究をしなければ」という結論が先にあると時間がいくらあっても足りなくなりますが、「1年に数本の論文を提出する」という結論を先にもってくると、ペース配分はまったく変わります。そしてそれが深い研究につながらないというわけでもないのです。

  • プロジェクトをやめてしまう: 重要なことが別にあるなら、相対的に重要性の低い活動はすぐにあきらめてやめてしまいます。面白いのは、小さいプロジェクトを放棄したところで、ほとんど誰も文句を言ったり、後ろ指をさしたりはしないという点です。罪悪感を感じてプロジェクトを中途半端に抱えるよりは、放棄せよ、というわけです。

  • バッチ処理と習慣化: ブログは昼ごはんのあと、論文執筆は朝一番、というように、物事をすすめるために必要な活動は出来る限り一箇所に集めてバッチ化し、さらにそれを習慣化します。

  • 結果を出して、許可は求めない: こうした逆算スケジュールは自分で勝手に作れるものではなく、結果を出し続ける限りにおいて主張できるものだと覚悟を決めてしまう。逆にいれば、結果が出ているのであれば時間をどのように使うかは自分の自由であるというスタンスをとって、他人に許可を求めることはしません

4. 結論を先に出す

Cal さんのようなすさまじいスケジュール維持するだけの意志と覚悟をもつのは並大抵のことではない気がしますが、それだって**「結論としての理想のスケジュール」を先に作り、それに向かって人生を歩み寄らせてゆくこと**から始まっています。

はるかな理想と現状とを対比させて「自分は理想からまだまだ遠い…」と思い悩むよりも、「今の 24 時間にパッチのように修正を加えるならどこから?」と考えてスケジュールを先に決めて行く方が簡単ですし、悩みが少なくなります。

「こんなのできるわけない…」と思う前に、ちょっと立ち止まって「自分の理想の 24 時間」はどういうスケジュールなのだろうか? 何を削減すればそれに近づけるのだろうか? という視点で 2010 年にむけたスケジュール作りを考えてみていただくヒントにしてください。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。