なぜ話を伝える際に「簡単化」しなければいけないか?
Made to Stick: Creating a Simple Strategy
職場で自分の考えを上司などに伝える場合などに、話題を簡単化して伝えることは多くあります。営業戦略や、プロジェクトの価値を伝えるのに、現場の細かい情報をすべて説明するよりも、重要な骨子を説明する方が楽だからです。
しかしそうした簡単化を、しばしば「Dumb Down」、つまり自分よりも理解が遅れている人のために水で薄めたような説明をするのと混同してはいけないということを、Made to Stick の著者、Dan Heath が三分あまりのビデオに凝縮してくれています。
「簡単化」をおこなうのは、相手が理解できないからではなく、むしろ選択肢や、理解すべき情報が多くなることによって判断力が縛られてしまう Decision Paralysis を避けるためなのだということです。
たとえば有名な心理学の実験に、24 種類のジャムを売った場合と、6 種類を売った場合で、商品に対する反応はあまり変わらなかったのに、総売上は 6 種類の方が大きく上回ったという例があります。これは 24 種から選ぶという膨大な選択肢を前に、客が「なんだかよくわからないので買わない」と判断を保留してしまったことを示しています。
具体的な簡単化の例
具体的な簡単化の例として、ビデオの中ではアメリカの地方紙の経営者フーバー・アダムズの例を出しています。この地方紙はノースカロライナの一つの町だけに発行している小さな新聞ですが、この町だけに限っていうなら、すべての市民が買っているといってよいほどの成功を収めている新聞だということです。
フーバーがこの新聞を編集する際に掲げている原則は「なるべく多くの町の人」を紙面に登場させること、という簡単なものです。
この原則に従えば、町の風景を撮影した美しい写真と、コミュニティーセンターで数人の市民が集まっているだけのつまらない写真との間で選ぶなら、写真としてはつまらなくても市民がより多く写っているコミュニティーセンターの写真を選ぶという判断をするわけです。
地方紙という性格上、市民の生活にできるかぎり密着してニーズのある報道ができたほうが、成功につながります。フーバーの「市民をなるべく多く載せる」という原則は、複雑なビジネス戦略を簡単化して、彼の社内の全員に一瞬で理解できるものにしたわけです。
簡単化を常に求める
考えてみれば Google のミッション「すべての情報を整理し、ユニバーサルにアクセスできるようにする」も、考えてみれば一行で恐るべき野望を言ってのけています。簡単化されたミッションは、大きな力を引き出すといってもよさそうです。
私も科学者という仕事をしている上で多くのプロジェクトの概要をきいたり、発表を見る機会がありますが、多くの場合はスライドに所狭しと文字と図を貼り付けて、上からそれを読むような「情報洪水」のスライドです。自分もそうしたことを時々やってしまいますが、そうしたときはたいてい、自分で何をしたいのかわかっていない場合があります。
行動と原則を1行にまとめるのは難しいですが、そこから引き出せる力を考えると、「これだ!」と思えるものに行き着くまで、常に追い求め続けるのに値するものだといえそうですね。