心を大事にして、今を乗り切ろう

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「こうしたサービス・ソフトを作ったので紹介してほしい」というメールを受けることがありますが、ほとんどはブログの趣旨と多少ずれているので、申し訳ないのですが紹介せずにいます。

しかし数日前に受けたメールは、このブログで扱うべきではないと頭ではわかっていても、どうしても削除できないものでした。というのは、自分の現状と直接関係があるからです。

そのメールというのは早稲田大学における「ポスドク交流会」へのお誘いで、ワクワク経済研究所LLPの保田隆明氏を迎えて、ポスドクのキャリアパスを考えるという会についてのお誘いのメールでした。

私自身、いわゆるポスドクで、今の職も今年度で終了することが決まっている不安定な身の上ですので、こうしたテーマについては強い関心をもっています。**ポスドク、あるいは不安定な雇用で不安を抱いている人が、どうやったら未来を切り開く力を維持できるのか。**これは自分自身の問題でもあるのです。

『情報ダイエット仕事術』の出版も決まって、なんか調子良さそうだな、こいつ」と思われた方もいるかもしれませんが、正直に書きましょう。来年の3月までに新しい職を見つけられなければ、私はいま「伝説の研究者」と進めている研究もいったんやめて、別の仕事をさがさなければいけないのです。

しかし、暗くなっていてもしょうがありませんので、不安定な身の上を明るく過ごすために次のいくつかのルールをなるべく徹底しようと心がけています。

一般の読者にはあまり関係のない話かもしれませんが、でも不安定な雇用で生きている人すべてに何かのヒントになるかもしれないと思って書きます。

不安を撃破して行動で埋め尽くすためのルール

公募はすべて出し続ける:

ポスドクの任務は、新しい職を求めて公募に応募し続けることです。ですからこんなルールは「当然じゃないか」と言われそうなのですが、毎回毎回全力で公募を書いて「不採用通知」が届くたびに、「無理なんじゃないか?」「こんな公募、どうせ受からないよ…」という気後れやあきらめがどうしても生じます。

これを乗り越えるためには、逆説的に聞こえるかもしれませんが、ルールとして「何も考えずに関係する公募は機械的に全て出す」方が気が楽になります。

「受かるのか?」「自分の専門とずれてないか?」「無理じゃないか?」という疑問を差し挟まず、懸賞に応募するかのごとく、とにかく書きます。

自分よりも業績の多い人がいるかもしれない? 自分にふさわしい公募ではないかもしれない? といった自己否定、自己批判につながりそうな思考は注意深くシャットアウトして、公募を書いているときは**「自分が一番この職にふさわしい人間だ! 文句あるか!」**というくらいの勢いで書いています。なあに、最悪でも不採用になるだけのこと、言いたい放題、書きたい放題書いてしまいましょう。

かえってそれが、あなたの自信をひきだしたり、思わぬ発想を生み出して面白い自己 PR につながるかもしれません。

コミットメントを決めておく:

私はこうした状況に何度も直面していますので度胸だけは座ってきましたが、それでも任期の残りが短くなって気分が落ち込んでくると、ひがみっぽくなったり、他人に嫉妬し始めたり、つまらないことを考え始めます。

こうしたことを防ぐために最近私は**「たとえ無職になっても、どんな場所にいっても実行するコミットメント」**を決めることにしました。

たとえば「この研究は、たとえ辞職しても自分のものだ。しがみついてでも絶対にやる」と決めておけば、先が見えても、見えなくてもやることは同じです。また、今の上司にこのコミットメントを渡して、「どこに行こうとも、無職になっても、この論文だけは書きます」と宣言することで自分を未来に向けて押し出せるような気がするのです。

コミットメントは「未来」に対する「今」の約束です。未来が不安定で不安に満ちている時こそ、良い未来にむけたあなた自身の希望の種を先に撒いておきましょう。

もっとも、これはパソコン以外の設備を利用する必要のない、私の分野などに限られるのかもしれません。実験施設を利用する必要のある方などは、なるべく在任中に論文をかけるネタをたくさん作っておいて、たとえポストがなくなっても執筆できるようにするなど、工夫が必要かもしれません。

公募時間と研究時間をわける

公募情報を集めて、それを書くのは非常に力が必要です。不安になってくると一日中公募情報を探したり、「公募を書くばかりで研究ができない」という非常に矛盾した状態に陥りやすくなってしまいます。

これをなるべくさけるために、公募情報を集め、書類を作るためだけに一日に30分ほど時間を割り当てておき、研究時間とは明確にわけておくのが有効です。これは作業の効率化よりも、心が楽になる効用の方が大きいです。

笑顔を絶やさない

これは最近守っていなかったので反省して再起動しています。

開き直りすぎかもしれませんが、まあ職がなくても、すぐに死んでしまうわけではありませんし、次に何か別の良いものが待っているのかもしれません。人間万事塞翁が馬といいますし、毎日を暗く生きるよりも、笑顔で福を呼び込んだ方が絶対に良いでしょう。

将来への不安や、制度や周囲の職場環境に対する不満、自分自身に対する自責の念など、いろんな感情が渦巻くとは思いますが、とりあえず今の自分を否定する言動だけはいけません

「不採用」が届いたり、職がないというのは、あなたが無価値でダメな人間だという証明ではないのです。それはただ単に、「そういう状況」だというだけのことです。ネガティブになっているひまがあるなら、できることをしましょう。

そしてできるなら、それを笑顔でやりましょう。

と、えらそうに書いてはみたものの…

実践するのは、けっこう難しいことですね。必ず、心は揺れ動きます。不安は必ず波のように寄せては返します。

なので、心の深みにはまって落ち込まないように、常に自分の心理状態をモニターして、調子のよい状態を作れるように注意しましょう。これはここ一ヶ月の自分を振り返って身にしみて感じています。

心が折れていなければ、いくつでも公募を出し続けられますし、職をなくしても「じゃ、次はどうしよう?」という発想になれますし、「自分に他の可能性はないのか?」と視点を広げてみることも可能です。

「心を大事にして、今を乗り切ろう」

考えてみればこれはポスドクに限らず、今の不況にあえいでいる人すべてに贈ることができる言葉ですね。

(でもまあ、本当にギリギリになったときのために、貯蓄はしておきましょう。)

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。