[Books] 「36 倍売れた!仕組み思考術」について思考してみた

「測定できるものは、管理できる」ピーター・ドラッカーの、この言葉を思い出す一冊でした。

AMN 経由でブログのバナー広告にも表示されていた田中正博さんの「36倍売れた!仕組み思考術」をいただきましたので、お礼もかねてレビューをしたいと思います。しかし、内容については多くの方が書かれているのでちょっと変化球で。

この本は「なぜ私は営業マン0人で営業利益1億円を稼げたのか?」という副題を見ても明らかなように、セールスについての本です。

セールスは私にとって一番苦手なものの一つで、学生時代に新入生に電化製品を売るバイトを引き受けた時にも、あまりにセールスの成績が悪いので(というか、一日歩いて商談成立0件…)次の日からはいたたまれなくなって配送の人員に配置換えしてもらったほどです。

そんな私でも、この本は読んでいてなかなか面白いと感じるところがたくさんありました。というのも、著者がすべてのステップにおいて戦略の効果を数値化して、投資とリターンを常にモニターしながら自分のセールス術を構築している点が、ライフハッカー魂に訴えるものがあったからです。

著者は製品を電話セールスで押しの一手で売ろうとするのではなく、「DM を送ってよいか」という質問だけで潜在顧客を浮かび上がらせて、そうした限定された客だけに効率的なセールスをしかけるという手段を解説しています。しかしそれを試すときにも、著者は DM があるばあい・ない場合、あるセールス手段を使った場合・他の場合で、成約の確率がどのように変化したかを具体的に数字で示しています。これがその他の本と比べて特色があると感じた部分です。

ある手段が利益を生んだ場合は、著者は「なぜそうした結果が得られたのか」をちゃんと理屈で説明しようと試みます。こうしてデータを常に見せながら、順序立ててなぜ自分のセールス術が効果をもっているのかを説明する本となっています。

こうした本にありがちな、肝心なところで精神論に逃げる傾向は微塵も無く、DM の文章から電話の言葉遣いの細かい点まで、こんなことまで書いたら自分の営業術のすべてを明かしてしまうじゃないかと心配になるくらいに具体的な内容が書かれています。ふだんセールスが中心の人にはすばらしい手本になるのではないでしょうか?

最終的にこの本は「セールスとは売り込むこと」という思い込みを脱構築して、「そもそも売れるものを、買いたい人の前に置く」仕組みを作るというメソッドに置き換えることをしています。それが「仕組み思考術」という題名の由来となっているわけです。

私自身はものを人に売り込む仕事をしていないのですが、セールスという語り尽くされた感のある話題でも、「○○という仕事はこうするものだ」という思い込みが、本質を見誤らせているということを教えてくれた一冊になりました。

本当にセールスの仕事をしていなければこの本の6割は関係ないかもしれません。でもこの本が書かれた「仕組み」を考える力は、すべてのひとに応用できそうな気がします。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。