GTD 駆け込み寺 (1) 多すぎるプロジェクトの処理方法

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あらかじめ太字で大書しておきますが、私は GTD のエキスパートではありません。自分ほど GTD を失敗している人もいないだろうと思うくらい、日常的に GTD の鞍から滑り落ちてはまたよじ上ってを繰り返しています。

しかしこの3年で失敗も数多く経験してきましたので、「多分、理想的にはこうすればいいのかな?」とか「きっと、ここがヒントになりそうだ」というツボはやっと分かってきた気がします。そんなわけでいつか「GTD 駆け込み寺」という不定期連載を作ろうと思って実例を集めていました。

そんな折に、先日の記事のコメント欄にこんな質問がやってきました。すばらしい質問だと思いましたので、まずはここから、この不定期連載をはじめて見ようかと思います。

質問:プロジェクトが多すぎる

昨日の記事のコメント欄に質問がありましたが、ここにコピーしておきたいと思います。

就活中の焦りを何とかしようと思い、学生ながらGTDを取り入れてみました。しかし、処理の段階で「プロジェクト」の数が多くなりすぎてしまいます。就活において現状の自分に足りない部分や抽象的な目標も全てプロジェクトに入れているからなのか、うんざりする量になっています。処理ステップでのコツなどありましたら教えて欲しいです。

つまり、「やりたい」「やらなければ」と考えている事が大量にありすぎて、「2ステップ以上の行動」を全て書いていったら膨大な量になったというものです。こうしたとき、どうすればいいのでしょう?

ヒント

そのプロジェクトは全部「実行可能」で「完了可能」でしょうか?

GTD を始めたころは「頭の中の事をすべて書く」という部分を忠実にやった結果、私のリストのなかにも抽象的な「もっと楽しい人間になる」とか「料理ができるようになる」(いまもできません)といったものが放り込まれていました。いわんや、もっと切実な悩みもです。

こうしたことが気になっていたのは確かなのですが、問題はこの抽象的なプロジェクトから「じゃあどうすればいい?」「どのような着地点が目標なのか?」といったことが見えてこないという点です。

そのせいで、このリストは悩みや、できれば向き合いたくないたくさんの事柄の集積場となってしまっていました。「うんざり」という気持ちはプロジェクトの量だけでなく、それに付随した感情(「大事だってことはわかっているけど、今はどうすることもできない」、「何から始めればいい?」)から来ているのではないかと想像できます。

ただ逆に考えると、これだけの数のプロジェクトを考えつくことができるというのはよいスタートですので、ちょっとした整理を試みればプロジェクトリストはすっきりとして、ストレスは大幅に軽減できます。

ステップ1: 「アクション」を起こせるものと、起こせないものとを分離する

まず最初に、たくさんあるプロジェクトのうち「Next Action」がちゃんと存在するものと、漠然としているものを分別します。「Next Action」とは、電話をかける、本を開いて5ページ読む、といったような 5W1H が定義できる行動です。

逆に「プログラマーになりたい」というのは一見プロジェクトのように見えますが、もうちょっと具体的に分解してみないことには Next Action が見えてきません(見える人もいるでしょうけれども)。プロジェクトリストにいれて管理するよりは、壁に貼る「目標」として掲げておき、この目標から実行すべき行動が流れ出すようにしておく方が、プロジェクトリストもスリム化します。

このように、Next Action が存在するプロジェクトはすぐに行動を起こせるものですが、逆に次のアクションが存在しない・定義できないものは細分化、プランニングが不完全なものですので、まずはこうしたものを探し出して「再検討」のフラグを立てておきます

ステップ2: 完了できるものとできないものとを分離

「良い人生を生きる」というプロジェクトは、まあ、いずれは「完了」すると思いますが、どの時点で「終わった!」と言えるのかは、はっきり分かりません。こうしたものは、実質的には「完了」できるものではなく、「漸近」させてゆくものですので、プロジェクトリストに入れておくといつまでたっても消せません。

これと同じように、「英語を身につける」「もっと自信をもつ」「自分のやりたいことを探す」なども、一見はプロジェクトのように見えますし、Next action も考えつきそうですが、今度は「Last Action」が明確にできないので、いつまでたっても終わらないわけです。

こうしたプロジェクトには、David Allen のいう Outcome Focusing、つまり「どんな結果が欲しいのか?」という答えを作ることが必要ですので、ステップ1のプロジェクトと同様「再検討」のフラグをたてましょう。

ステップ3: 滑走路から上空 10000m までのバランスをとる

もともとの David Allen の本では、日常的な雑用や緊急を要するこまごまとしたことを「滑走路」レベルのタスクと呼んでいます。それに対してより俯瞰的で長期的なビジョンは「上空 10000 m」のレベルということになっていました。

GTD の面白いのは、「10000m に行くには、まず滑走路のゴミをなんとかしなければいけない」というボトムアップの考え方をしている点です。最終的には滑走路から上空まで、細かい事から大きな目標にいたるまで、すべてのレベルで「物事は前進している」という実感を持つことが目標になります。

プロジェクトリストが長くなりすぎている場合は、なにが「滑走路上のゴミ」であるのかを一瞬で見分けるために、プロジェクトの持続時間で区切るのがよい指標になります。つまり「7日以内にやっつけなければいけないこと」と「今月中」「半年以内」のプロジェクトとを分離するわけです

また、ステップ1と2で「アクションを起こせない」とフラグが立ててあるプロジェクトに関してはとりあえず Someday / Maybe に移動するか、あるいはより短期的で具体的なマイルストーンを設定しておき、そこから実際に行動できるプロジェクトを作っていきます。

たとえば、「英語を鍛える」というプロジェクトなら、「TOEIC 800 点」という具体的なマイルストーンを設定し、これに対してプロジェクトを作成していきます。「参考書を買う」、「模試を受ける」、「試験の申し込みをする」といった感じですね。

プロジェクト・リストのトリミングの目安

GTD を始めたばかりなら、80% のプロジェクトは Someday / Maybe にいったん格納して、そのなかでも緊急性・重要性の高いものを一つずつ「昇格」させて片付けてゆくのが良さそうです。

GTD で頭のなかにあることを全て書き出すのはすべてを同時に実行するためではありません。

「あれをしなきゃ」「これもしなきゃ」と頭の中で焦燥に駆られないようにするために、プロジェクト・リストにすべてを書き込んでおき、「よし、自分にはやりたいと思っている事がいま 70 近くある、そのうち現実に手を動かさないといけないものは今はこの7つだけ。あとはまだホールド」と交通整理ができるようになります。

慣れてくると、短期的に解決すべきプロジェクトと長期的に解決すべきプロジェクトに対して、それぞれ1日の仕事時間から逆算してどのくらいの時間を割り当てるのかを管理できるようになってきます。そうして初めて、「滑走路から高度10000mまで」のすべてのレベルで何かが進行している状況ができあがるわけです。

お役に立てたかはわかりませんが、私の GTD 体験から抽出したプロジェクトリスト作成のこつのようなものです。また、David Allen の会社の掲示板にも似たようなディスカッションがありますので、あわせて参考にしてください。

GTD の実践で疑問に思われたことありませんか? コメントでどうぞ書き込んでください。今後の参考にさせていただきます。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。