あえて完全勝利を目指さない
GTD の話題が続いたのでちょっと離れた話題になります。先日行われた将棋の NHK 杯決勝は手に汗を握る名勝負でしたが、解説の方が言っていたことで心に残った言葉がありました。
佐藤康光棋聖と森内俊之名人棋王のどちらのことを言っていたのか聞き取れなかったのですが、彼の指しかたは近年変わってきて、最近では「完全勝利を目指さない」という解説を、ちょうど部屋に入ってきたところで耳に挟みました。相手はそれほど弱くはないということを受け入れ、最後の最後で一手だけ先に相手の王将を追いつめれば勝ちということを意識し始めている、という話でした。
このことは競争的な社会のなかでも非常に有効な考え方だと、感心することしきりでした。
羽生さんも著書「決断力」のなかで、一つの対局のなかには「勝負所」があるので、どこが勝負所なのかを見極める目を養い、その局面で全力を使うという話を書いていました。
漫画にあるような、刀で斬った相手の返り血も浴びないような完全勝利はそもそもあり得ないのだと割り切ってしまい、相手の実力を認めて多少は攻め込まれることを覚悟してしまう。すると無駄な防御に力を費やさずに、勝利のための最短ルートが意識できるようになるのかもしれません。先の世界フィギュア女子で安藤美樹選手があえて四回転を飛ばなかったのも、コーチのモロゾフさんのこのような現実的な勝負観から出ていたのかと思います。
勝利と書くとなんか相手を敗北させるための技術のように聞こえて語弊がありますが、これを「達成」と変えてもあまり変わりなさそうです。