パーマリンクのある活動に集中してみる

2026年には「個人ブログの時代」が戻ってくるかもしれないと考えています。それがたとえ、風の力で開いた扉がすぐに閉じてしまうような、束の間のことであったとしてもです。

こう考えるようになったのには2つの理由があります。一つは生成 AI、もう一つは SNS におけるアルゴリズムの蔓延です。

オーセンティックな記事はどこにある

ここ数年がそうであったように、2025年も生成 AI の話題が非常に多い年でした。しかしこの一年は特に、互いにしのぎを削る ChatGPT・Gemini・Claude といったサービスが提供する機能によって記事の本文、画像、インフォグラフィックのすべての領域で AI の使用が目に見えて広がったのが印象的でした。

ブログやウェブ記事の分野だけをとっても、ちょっとみないうちにアイキャッチが疑似ジブリ風のイラストになったり、文章の情報量が不自然に増幅していたり、個性的だった文体が洗練されたよそよそしさに置き換わっていたりした例をよく見かけます。

これは私が偏屈だからそう思う部分もあるのかもしれませんが、そうした記事が以前の記事に比べて飛躍的に役に立つものであったりわかりやすいものであることは稀です。むしろ、情報量のわりには論点がジェネリックでヤマもなければオチもない記事になっていたり、堂々巡りになっていることのほうが多いように見えます。

まるで「この記事を書くのに手間をかけていられない」といった焦りが文章から燻っているようで、それがなまじ誤字脱字のない完璧な修辞から繰り出されるので不気味さが際立つのです。

記事の内容が技術的な問題と回答だけならばこれでもよいのですが、およそ論点を提示するブログ記事の場合には、誰がどういう立場で書いているのかという行間や文脈が重要になります。生成 AI にはまだこれができません。

なんのためにこの記事を書いたのか、書き手はどの立場でこの意見を語っているのか、どうして自分が時間をかけて読まなくてはいけないのか。そういった、読者が当然抱く疑問が宙吊りになったままだと、記事から真剣さというか本当になにかを語っているような雰囲気が伝わってきません。

オーセンティックな( = 本物らしい)感触がないのです。

アルゴリズムが迷走する

ここに、SNS のアルゴリズムのエンシット化が加わります。エンシット化とは、サービス提供側が自身の利益を最大化するためにユーザーが離脱しない程度に機能を改悪することで、たとえばツイッターが「おすすめタイムライン」をデフォルトにして、フォローしていないひとの投稿を広告とともに大量に表示するのはそのよい例です。

実際、X となったツイッターでは「フォローしている人の投稿が表示されない」といった苦情が絶えませんし、投稿する側でも表示が間引きされないために「リプライなどのエンゲージメントをわざとおこなう」といったバッドノウハウが広まる始末です。

これは終わりのない蟻地獄のような様相を呈しています。SNSで投稿しても届かないので、投稿を増やしたら間引かれるし、関係のないエンゲージメントをしてもノイズと判別されます。まるでずっと警笛を鳴らし続けているように、自分の投稿に注目が集まるようにあの手この手で目立たないといけない。そうしないと埋没をする。そうしていても、埋没する。

これがエンシット化が進んだSNSの風景というわけです。

窓が少しの間だけ開くタイミングが?

この二つの影響もあって、1. ちゃんと人間の「声」をもっているコンテンツが、2. 見逃さずことなく流通することに、一時的に価値が見出されるタイミングがあるのではないかと思っています。個人ブログは、まさにこれに合致したメディアだというわけです。

ただし、昔のようにブログがもてはやされたり注目される時代が来るとも、誰もが RSS を使用するようになるとはさすがに思いません。

時代はゆるやかにループして繰り返すものですが、そのたびに同じ場所に戻るのではなく、少しだけ違ったなにかをなぞりながら次の周回を目指すからです。

古いブログそのものでも note のようなサービスでもないものが今回は注目されるかもしれませんし、RSS のようなサービスでも Discord のようにファンを囲った閉じた庭でもないつながりかたが生まれるのかもしれません。

具体的にはわからないのですが、オーセンティックで、強いつながりをもつメディアに一時的に光が当たることだけは必然のような気がしているのです。もしかしたら、ポッドキャストや YouTube 配信といった形ですでに来ているともいえるかもしれません。

パーマリンクを意識しよう

私自身は毎週 YouTube 配信もしますし、ポッドキャストをすれば何時間でもしゃべれる人間ではありますが、それでも文章を書くのが最も性に合っています。

そこで、先程の二つの要件を満たすなにかを探すならば、やはりブログやブログに近いサービスを利用するのが中心になります。

ブログというメディアを特徴づける要素はいろいろありますが、ツイッターや生成AIとの対比でいうならば「パーマリンクのアーカイブ性」が際立ちます。

細かいことをいえば YouTube も X 投稿だってパーマリンクはあるのですが、「この人が A という話題について書いているすべての記事を探したい」といったニーズに応えるときに、固有ドメインとブログという組み合わせはいまも優位に立っています。

そこで、しばらくの間は次のようなポイントを意識してみたいと考えています。

  1. 属人性の高い情報発信:これは AI が記事を飲み込んで私の署名を消したとしても利用価値が少ない、代替不能なテキストを構成していることを意味します

  2. テーマの属人性を高める:ライフハックといえばこの人、このテーマだったらこの人といったように、書いているテーマそのものと自分自身の活動がわかりやすく結合している状態を意識します

  3. 検索性を高める:これは AI SEO を高めるというのではなく、「ここで探せばこのテーマは見つかる」という期待感に応えることを意味します。このためには、パーマリンクをもつメディアであること、それがオープンであることに強だる必要があります

もちろんアルゴリズムに支配されている世界から読者や仲間を引き込まなければいけないわけで、ブログや note といったパーマリンク性の高いメディアへの誘導を意識した SNS の投稿やコミュニティを意識した情報整理も必要になります。

とにかく、アルゴリズムによって表示されるかされないかが制御できない場所よりも、来た人が確実に話題をたどることのできるアーカイブ性を意識することで、この一瞬だけ「窓が開く」場面に立ち会えるのではないかと期待しています。

その後はまた、次の周回が始まるのでしょう。しかし最初の風景が見えていれば、次にやってくるもが先読みしやすくなります。

なにがやってくるのだとしても、私はその風景を見てみたいのです。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。