インプットする情報の流れを減らしたら、喜びが生まれた

SNS を通した偶然の情報との出会いも多くなりましたが、根っこの部分では私の情報インプットの仕組みは今も昔も RSS に依存したままです。膨大なサイトの RSS フィードを Feedly のようなサービスに登録し、それをReeder のようなアプリで高速に読むことで、日々のニュースを漏らさず把握できるようにしています。

登録しているのはテック系のメディア、ブログメディア、個人ブログなど約200個のフィードですが、この数になると一日に約1000件ほどの記事が流れてきますので、もちろん全てに目を通すことはできません。表題と、最初の一段落ほどで重要性を判断して、興味を持った記事だけ時間をかけて読むことをしています。

大量の情報に目を向けることができますので、全体の雰囲気をつかむのにはよいものの、この方法には大きな欠点があります。楽しくないのです。

以前はこの方法でも楽しめていた時期はありました。しかし最近は、しだいに記事の表題がクリックを誘発するために本題を隠したり煽るようになっていたり、記事が購読料の壁の向こうにあって読めなくなるケースが増えてしまい、探す手間に対して無駄の量が増えているのです。AIで書かれた、ノイズで水増しされた記事が増えているのも、苦痛の一端です。

日によっては、1000件の記事の表題に目を通してもなにも読むべきものが見つからないという事もあります。情報は膨大に流れているのに、どこにも心が動かすものがないのです。

すると、偶然なにか興味深いものを見つけられないかと SNS のタイムラインを当てもなく眺めている時間が増えてしまいます。それも結局は疲れる時間なのですが、偶然何かを見つけられることもあるので、なんとなく眺めることをやめられなくなってしまいます。

アクティブに情報を探しているつもりだったのに、いつしかアルゴリズムの差配しだい受動的にタイムラインを眺めているだけの、不満な状態が完成してしまうのです。

フィードの思い切った削減

こうした時間がしだいに苦痛になっていたある日、そういえば Reeder には新旧の2つのバージョンがあって、それぞれを別に運用できることを思い出しました。

旧 Reeder は Feedly のようなサービスを登録するのが基本的な使い方なのですが、新 Reeder は iCloud で情報を管理しているので、別個に運用することができます。ここに、まったく別のダイエットした情報の流れを作ったらどうだろうと思いついたのです。

新 Reeder には YouTube やポッドキャストのようなメディアも登録して流れを作ることができるというメリットもあります。

YouTubeチャンネルも RSS 同様に 200 近く登録しているものの、実際に見ているのはほんの一部に過ぎません。そこで、「絶対に一つ残らず見たい」と思っているチャンネルだけを新 Reeder に登録しておくことで、視聴チャンネルをダイエットできるのです。

メディアではなく、個人の声を追う

登録するフィードを選ぶ際には、一つの方針を決めました。「有名メディアなので読む」という基準を捨て、「ぜひとも読みたい個人の声があるかどうか」を重視するというスタンスに変えてみたのです。

いくら有名でニュースをたくさん掲載しているメディアであったとしても、ほとんどの記事は注意深く読むことがありません。たいていはツイッターで投稿が流れていったのを目にして、それで満足してしまいます。

だったら、新 Reeder のほうには自分が更新を追っているブロガーのフィードを優先度高めにしておいたほうが、満足度が高くなるのではと考えたのです。

たとえば新 Reeder の最初のフォルダにはこのように個人ブログを中心にせいぜい10個程度を登録しておき、ブログメディアやその他のフィードは優先度を下げておきます。

YouTubeとポッドキャストも、厳選して10個程度の、いつも目にするものだけに集約します。

すると、非常に濃厚なタイムラインが新 Reeder のホーム部分に表示されるようになります。雑多なニュースは旧 Reeder で眺めておけば、ここにはニュースに対する反応、意見、批評といった、本当に耳を傾けたい話だけが集まります。

なにより、情報をただ伝えるだけの記事ではなく、「個人の意見」が凝縮されたフィードにはいいようもない楽しさがあるのです。

いま必要なのは、個人ブログの「声」

こうして膨大なフィードをまとめ直すと、日々の情報インプットのストレスをかなり軽減できるようになりました。

ニュースや最新の知見などは、以前と同様に旧 Reeder でスキミングするか、SNS で偶然出会うものをブックマークしていきます。しかし、それは普通に暮らしていても勝手に耳に入ってくる情報ですので、その情報の奔流の中から砂金を探そうと努力はしません。

むしろ、新 Reeder に凝縮させた個人ブログを中心とした記事のほうが、時間をかけて読む意味があり、考える価値があり、満足をもたらしてくれるのです。それらの中から、必読のものを10個程度選び、Raindrop.io に保存して移動時間などに読んでいきます。

すると、例えば Dave Winer 氏が「ブログ文化の再構築」を提案している記事が目に付いたり、それについて有益な提案をしている別のブログを紹介している記事が目に飛び込んできます。

Cory Doctorow 氏がいつもの舌鋒の鋭さでアップルの正義が消費者の正義とは限らないという指摘をしている記事の視点について考えることができます。

今日は作家イアン・マキューアンのインタビューが配信されているのに気づいて、その最新作「私たちが知りうるもの」で未来人が現代を振り返ってノストラジーに浸るという構図が解説されているのを耳にしてその奇抜さに興味をかき立てられるということもありました。

上手に情報を減らすことができるなら、そこには喜びが生まれるのです。

この仕組みの弱点は「発見」で、これだと膨大に流れてくる note の新しい記事や、今日たまたまブログを書いた人の記事は流れてこないというデメリットはあります。しかし実際のところ、数千の「読んでほしい」という記事に対して読むべきものは1つ程度なのですから、この問題は私の側で目を通す記事を増やすことで解決するものでもないように思えます。

それより、いま一番足りていないのは、喜びをもたらす個人ブログの声なのではないかという気がします。偏っていて、個性があって、考えさせて、友人がとなりで喋っているように心を通わせながら読めるブログが、いま一番足りてないのです。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。