テキストファイルが最高のToDoリストとは限らない

先日、「Todoist や OmniFocus などを使ったタスク管理よりも、シンプルなテキストファイルが最強だ」という海外の記事が話題になっていました。
「やるべきこと」をどのように整理すればいいか、どのようにメニューを操作すればいいか、そのサービスに会社のパソコンからログインできるかといった細かいことに囚われることなく、単純なテキストファイルにすべてを保存する方がスピーディーであてになるというのがその記事の趣旨です。
もちろん、こうした話題が出てくるのは初めてのことではありません。むしろ、ライフハック界隈ではおそらく3度目か4度目のことではないかなと記憶しています。
有名なのは、ブログメディアの Lifehacker の立ち上げ人だったジーナ・トラパーニ氏が紹介した方法で、彼女も同じく ToDo.txt というファイルを使ってタスクを管理していました。このブログで紹介したのは2012年のことですね。
ギークらしく、ジーナはこのテキストファイルにタスクを追加したりアップデートをすばやく行うためのコマンドラインツールを開発していて、手元ですばやくタスクの一覧を閲覧できるようにしていました。いまでも、このプロジェクトはtodotxt.org という名前で Githubでメンテナンスがされているようです。
本当にテキストファイルが最強?
こうした歴史を紹介したのは、「こうした発想が登場するのは初めてのことではない」という点と「何年経っても一部のマニア以外には広がらない」のをあらためて念押ししておきたかったからです。それはこの手法が悪いからではなくて、万人にとって最強の手法など存在しないからです。
たとえば、くだんの記事ではこうしたテキストファイルが例としてあげられており、箇条書きにしたタスクを入力するのに「2秒とかからない」となどと書かれているのですが、もちろん音声入力でもそれは無理な話です。むしろ、これをスマートフォンで入力する方が難しくないでしょうか?
また、これが何十行、何百行にもなるといちいち目を通すのが大変ですし、来週までとりかかれないタスクが含まれていると、「いまは関係がないタスク」がノイズになって一気に効率が悪くなります。テキストファイルは通知を送ってくれませんので、遅れそうなタスクがないかはいちいちリストの目を通さないといけないのも危険と隣り合わせです。
「テキストファイルだから簡単」の発想が魅力的なので、ついうっかり受け入れてしまいそうになるのですが、言うほど便利でも簡単でもないわけです。既存のサービスに依存することのない、スマートフォンのなかで同期されているシンプルなテキストファイルという利点は、別の欠点によって相殺されてしまう。それが過去何度も繰り返されてきた議論の結論です。
自分に合ったタスク管理を考えてみる
では、どこかに理想のタスク管理の手法があるかというそういう話ではなく、その人がいま直面している仕事量や、手元で一番手を伸ばしやすいツールがなにかといった要素、あとは好みで選び取るしかありません。簡単に整理してみましょう。
タスク管理は「やらなくてはいけないこと」をどこか外部記憶に保存しておくだけのことです。書き込みやすく、無くしにくく、タスクを思い出しやすければ、十分なものです。すると、問いかけとしては:
- 手元でいつでも見られることが大事か(ブラウザやアプリをみるのが手間ではないか)
- デジタルで同期していることが大事か(スマートフォンの電池切れや圏外の影響は考慮するかどうか)
- タスクを検索したり、締め切り日や優先度で整理したいか
- 通知がスマートフォンに届いてほしいか
- サブタスク・プロジェクトなどといった形で抽象化したいか
このあたりが主なものになるかと思います。
たとえば、タスクをさっと書き留めるためにスマートフォンを開いてエディタアプリを起動するだけでも10秒ほどの時間ロスになるのが嫌なら、紙に書き留めるのが「最強」になります。
どこにいってもタスクを見たいので、机のうえに忘れてしまうメモ帳はリスクになるという人はデジタルで管理するのが「最強」になります。
大量にタスクがあるから検索したり、通知が送られるのをあてにしているのなら、テキストファイルではなくて ToDoist のようなアプリが「最強」かもしれません。
仕事を大雑把に「論文を書く」などといった形で捉えておき、あとから「資料を集める」「共著者に連絡する」といった細かい部分をゴリゴリと構造化してゆく考え方に慣れているなら、LogSeq や OmniFocus といったマニアックなツールを使い始めるといろいろなことができるようになります。
おそらく、これらの質問のどこかにあなたにとっての「最強」があるといえます。そして、これがどうも面倒だなという印象がするなら、紙切れ一枚にタスクを書き出すところからスタートすればいいのです。
ジーナ・トラパーニ氏がコマンドラインツールを作ってまでもテキストファイルにこだわったのは、それが万人向けの最高のやりかただからではなく、彼女がプログラマでテキストファイルを触っている頻度が高く、オタクでもあるのでツールをつくることで自分好みの手法を生み出すことに喜びを感じたからです。
きっと誰でも、そのときの自分に合った「最強」の手法が作れるのです。