Substack Notes、あるいは真のタイムラインを求めて

Substackを一言で言い表すのは至難です。それはメールのニュースレターを配信するサービスであり、ブログであり、ポッドキャストや動画サイトでもあります。

Substackは文章を中心として、なにか声を上げたい人のためのプラットホームで、ジャーナリストやブロガーやクリエイターが集まるコミュニティでもあります(欧米中心で、日本のユーザーはまだまだ少ないですが)。

そのSubstackに、ツイッターを彷彿とさせる新機能、Substack Notesが発表されています。イーロン・マスク氏が不必要に騒ぎ立てて妨害したせいで逆に大きく広告されてしまう形になってしまいましたが、このNotes機能とはどんなものでしょうか? どうしていま、新しいタイムラインが必要なのでしょうか。

短文でコミュニティを作り出す、引用で新しい会話を生み出す

Notesはツイッターと同様に、数百文字以内の短文を投稿する機能です。投稿には写真を添付することも可能です。そしてNotesの投稿は通常のSubstack投稿のようなメルマガになって送信されるわけではなく、Substackにブラウザでアクセスするか、アプリから閲覧したときにみることができます。

お気に入りの著者がいるなら、その人をフォロー(ボタン上ではSubscribe)することでNotesを読むことができるようになります。また、メルマガを始めるつもりはないユーザーは、Notesを投稿したり購読できるようになるReaderアカウントを作成することもできます。

フォローしているアカウントが投稿したNotesはアプリのNotesタブにタイムラインが表示されていますので、そこから読むことができます。タイムラインはSubscribedとHomeの2種類があるのですが、Subscribedは純粋にフォローしているユーザーのみ、Homeは購読している著者がお勧めしているユーザーもアルゴリズムで流れるようになっています。

Notesはツイッターのリツイート相当する再投稿もできますし、公開されたメルマガの一部を引用して作成することもできます。書かれた記事を中心に、著者と読者の会話のネットワークが広がるのがNotesなのです。

ツイッターというタイムラインのゆるやかな死

SubStack Notesはイーロンが過剰反応したようにツイッターそのものを置き換えるサービスではありません。ただし、ツイッターが当てにならなくなったためにうまれたニーズを解決するためのものではあります。

以前ならば、情報の流れはまだまだ少なかったので著者やブロガーがRSSを発行し、それをGoogle Readerのようなサービスで読むことができました。その後、情報がしだいにリアルタイムの投稿にシフトすると、RSSだけでは足りなくなってきます。記者や著者はツイッターにも直接投稿して、自分の媒体に誘導するようになります。読者視点ではタイムラインがツイッターのようなSNSに移行したのです。

そのうち、限られた記者やブロガーだけではなく、すべての人がすべての人のアテンションを求めて投稿するようになります。これは良いことでも悪いことでもなく、そうならざるを得ないという必然でしかありません。

しかし多くのひとが集まる場所ではまともな会話が成り立たないのと同じように、タイムラインに投稿される無数の情報、その場限りの一発ネタ、冗談、嘘、悪意、意味のない雑音が、タイムラインの有用性を次第に薄めていきます。

そこに、ツイッターの買収とタイムラインからできる限りの広告費を搾り取らないといけないというインセンティブが加わり、アルゴリズムによってフォローしていない、興味もない情報が押し付けられるようになることで、タイムラインはほぼ使用不能になってきます。少なくとも、意味のある情報をとりだすためのコストが、普通の人の忍耐を超えてしまうのです。

Substack Notesのようなサービスが生まれる背景には、情報のタイムラインが有用性を失い、「面白い記事はないか」「興味深い著者を探したい」というニーズに応えきれていないという、Substack側の切実な問題があるのです。

それでも、タイムラインが多すぎる

Substack NotesはSubstackの著者をフォローするには便利ですし面白い試みですが、また一つチェックする場所が増えてしまったという意味では、問題に対する頭の痛い解決方法です。

それでなくても、ツイッター、メールの受信箱、YouTubeチャンネルといったようにタイムラインが多すぎますし、課金しているタイムラインも各メディアサイト、Pixiv Fanbox、Substackなど、多すぎます。SNSもツイッター、マストドン、Bluesky、Nostrなどと増殖してばかり。これは書く方にとっても、読む方にとっても大問題です。

先日Discordサーバーの運用についてご紹介したものも、「ここにくればすべての更新がわかる」という場を作りたいからでしたが、本当なら読者がDiscordサーバーにやってくる手間をかけてもらうことすらしたくありません。

与えられた時間だけは不変の世界ですべてのひとがすべての人の耳目を集めようとするのを逃れて、騒音がうるさすぎるカフェから外に出て静かな場所で手紙を待つような、理想のタイムラインは作れないものかとよく夢想します。

Substack Notesはよい始まりではありますが、私の限られた時間で消費するにはタイムラインが多すぎるのです。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。